僕らの旅行記

□希望の街
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声をかけてきたのは宿のカウンターにいる女性だ。
歳は俺より少し下かな。
赤い髪をツインテールにしていて活発そうに見える彼女は、ナナリーと言うらしい。

「こう見えて弓が得意でね」

というのは、大道芸人と言われても仕方ない格好の俺達を剣士と見切っての発言だろう。

…王子様ルックと白鎧だもんな。

実力者は相手の実力を見抜くって言うし、身のこなしにも無駄がない。
うーん成程、確かに結構やる人みたいだな。

「そういうアンタらもね」

言ってカラカラ笑う姿は、どうも田舎のマギーおばさんと重なってしまうんだけど…
それだけさっぱりした性格なんだろうな、うん。

「それは誉めているのか?」

困ったように笑うリオンに聞かれたけど、俺も困ったように笑う事しか出来ないからな?

「…それはそうとさ、アンタら」

声のトーンを落としたナナリーに、俺達は笑うのをやめてナナリーの方を見る。
気まずそうに、それでも切実に見える彼女は、初対面でこんなの頼むのも何なんだけどさ、と切り出した。

「"バジリスクの鱗"って持ってないかい?持ってたら譲ってほしいんだ」

バジリスクの鱗。
その名の通りバジリスクの鱗だ。
バジリスクは主に暑い地域に生息している鱗つき巨大ナメクジみたいな外見のモンスターで、数はあまり多くはない。
こっちを石化させて来るから装備がないとかなり危険な存在だな。
そんな事もあり、バジリスクの鱗はかなり稀少な品なんだ。
ちなみにこの鱗は万病に効くと言われていて、稀少でも求める人は多い。
ナナリーもその中の一人って事なんだろうけど…
彼女はどう見ても健康だよな。

「どうして必要なんだ?」

聞くとナナリーは顔をしかめたけれど、言わなきゃ依頼としてフェアじゃないからと、ゆっくり答えてくれた。

「ルー…って、弟が、さ。病気で、ね」

普通には治せない病気だと。
バジリスクの鱗があれば治せるかもしれない、と聞いて、俺は聞いたことを後悔した。
聞きたくなかったとか薄情な話をしたいんじゃない。
辛い事を言わせてしまったことを、後悔した。
ナナリーがさっきまで明るかったのは、辛いのを誤魔化したいからだ。
そして、心配されたくないから。

…俺もそうしていたから、よくわかる。

「他にも稀少な薬草が要ったんだけどね、そっちはバルックさんて人が都合つけてくれて」

…泣きそうな顔で話を続けてくれるナナリーを制すると、俺はわかった、と頷こうとして。

「スタン」

「!」

…それを、何故かリオンに阻まれた。



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