つばさをもつものたち

□あめふりのひ
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アトラスを連れて喫茶店の席に戻ると、紅茶のカップが片付けられてしまっていた。
まだ残ってたんだぞ、畜生。
やれやれ、仕方ないからまた頼むか。

「アトラスもなんか頼むか?」

「え、いいの?」

いいの?と言うのは俺がもうすぐ会計して帰ると思ってたから出た発言だ。
アトラスはこういう空気は敏感に読むからなぁ。
…まぁ今回はどうせアトラスの分も頼むつもりだったしな。
じゃあねー、とメニューに目を通したアトラスはウエイトレスさんを呼びつけると、俺の紅茶と一緒にチョコパフェを頼み、えへへと笑った。
この笑いを言葉に訳すと

『頼んじゃったよー』

といたずらっ子っぽく言っている感じだろうか。
現に悪戯みたいなノリで頼んだんだろう。
これくらい作った方が安い!というのは俺の持論でもあって、普段は口うるさく言うからな。
しかし普段と違い文句すら言わない俺に、アトラスは段々と不安になってきたようでおどおどしているみたいだ。
が、今回は文句を言うつもりはない。

「折角迎えに来てくれたんだ。礼くらいさせろよな」

と言ってやると、アトラスはホッと胸を撫で下ろした。

何だ?やけに神妙だな。

いくら俺がらしくない行動をしているからってアトラスのこの神妙さは説明がつかない。
普段なら『礼くらい〜』と言った時点で、いや文句を言わなかった時点で後3つは追加注文するような奴だ。

…我ながらなんつー印象持ってんだか…

それが今日はこの反応。
…おかしい。
何かあったと考えるのが自然だろう。

「何かあったのか?」

と尋ねると、アトラスはなんでもないよと慌てて言うが…
目も泳いでいるし、そんな訳ない事バレバレだぞ。

「うるさい、とっとと理由を吐け」

大体雨の日にお前が迎えに来るなんて事自体が既に奇行なんだからな。
誤魔化しても無駄だと言ってやって、やっとアトラスは観念した。
「…起きたらジェネ居なくて、不安で…」

やっぱりか。
変に俺に遠慮していたし、見捨てられたかと不安になったんだろう。
つい雨の中探しに出てしまう程に。
…だけど以前からの事を考えると平気だった方だし、迷いなく商店街の方に来たよな。

「置き手紙してあったじゃん」

アトラスは唇を尖らせたが…確かに置き手紙は書いておいたけど、お前普段置き手紙読む余裕すらなくなるじゃねーか。
やっぱり普段よりは余裕があったみたいだな。

「どうしてだ?」

「わかんないけど…」

そうやって首を傾げたアトラスは、あ、と言って手を打つ。

「前に"黙っていなくなりはしない"って言われたからかも」

あ。
それはこの間、アニメで何か別れものを見ていて泣き出したアトラスに言ってやった言葉だ。
いなくならないよね、と泣き付かれて言った本音で、あまりワガママだと言ってから居なくなるかも知れないぞという意味だったんだが…
それで少し精神安定してしまったんだからちょっと複雑だ。
でも、それだけ俺を信じてくれたって事…だよな。
…うん。

「ありがとうな」

アトラスは何だかわからない、という顔をしていたが、伝わらなくても仕方ない。
が、詳しく言うのは恥ずかしくてちょっとな。
仕方ないから、俺は誤魔化すように苦笑った。



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