短編ごちゃごちゃ

□TOD 僕だけにしろっ! 〜ジルクリフト邸採用試験〜
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剣道バカも役に立つんだなぁ。


僕だけにしろっ!
〜ジルクリフト邸採用試験〜


上京したての頃、俺は出稼ぎに来ていたボブおじさんのアパートに厄介になっていた。
とはいえいつまでも厄介になるのは悪いと思ったし、せめて家賃ぐらいは払うためにバイトを探していた俺の目に飛び込んできたのは、

『日給9500円、住み込み家庭教師募集』

なんていう、ある意味この上ない条件の求人広告だったんだ。
そりゃあ即日電話問い合わせしてみるしかないじゃあないか。



そこから順調に、俺は倍率50倍とも噂されたこのバイトの一次面接まで何故かあっさり通過した。
自分で言うのも何だけど、俺は礼儀作法は心得ていても学力は並だし、優男に見えて剣道バカ。
この、すごくデカい屋敷の子どもに勉強教えるには特別有利な点はないような気がするんだけど、まぁ素直に喜んでおこう。
残るは関門は二次面接。
ここまで来たら受かってしまいたい。
…のだけど。
俺より先の順番の人が別室に呼ばれる度に響く悲鳴、そして顔面蒼白、時折失禁までして出てくる受験者のただならない様子を見せられると、流石にこの職場自体に不安が募る。
あの扉の向こうに何が待ち構えているんだろう。
…屋敷だからってまさかライオンとか居ないよな?
そんな不安を勝手に募らせる内に順番が来て、俺はノックをした後に中から聞こえた

『入れ』

というぶっきらぼうな声に従って扉を開き、中に入った。

「失礼します」

…何の事はない普通の部屋だ。
少し広い部屋の奥に長机があって、1人だけ座席についている。
俺はそっちに向かおうとして…
感じた気配に足を止めた。
直後目の前に振り下ろされ、わざとらしく俺の顔の目の前で止められたのは、恐らく真剣。
刀ではなく、両刃の西洋剣の類だろう。
…成程入った途端こんなことされたら普通ビビるよなぁ。

「…ほう」

声のした方に顔を向ければ、そこではさらりとした質感の金髪を伸ばしたおじさんが、感心したように頷いていた。

「度胸も腕前もあるらしいな。我が孫の教育係に望ましいレベルだ」

言いながら、おじさんは俺が眼前につきつけたボールペンを押し退ける。
と同時に俺の目の前の剣も引っ込められた。
…どうでもいいけどこれって家庭教師の面接なんだろうか?



「自己紹介が遅れたね」

と切り出した、奥に座っている黒髪のおじさんが、雇い主であり俺が教える子の父親のヒューゴさん。
そして剣を持っていたのが、ヒューゴさんの父親であるミクトランさん(そんな年には見えない)というらしい。
彼等の説明によると金持ちというのは結構厄介で、当人達のみならず親しい人まで面倒に巻き込まれる事も多いとか。
だからそういった場合最低限の自衛と、あわよくば教え子を守れるような家庭教師を雇うためのテストだったんだそうだ。
…田舎の剣道の先生が真剣で教育する人だったから平気だったけど、これ普通は無理だよな、突破。


かくして、その翌日から働く事になるという落ちがあるとはいえ、俺は住居と職を得たのだった。



しかし教える相手があの時の迷子だなんてなぁ。

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