短編ごちゃごちゃ

□TOD 対等な関係
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対等なヤツなんか、いないと思ってたのに。


TOD〜対等な関係〜


こいつは僕にとって何なんだ、と唐突に気になった。
こいつというのは何度あしらっても話しかけてくるスタンであり、何なんだろう、というのも具体的に名前のつく関係どうこうという事ではない。
目上なのか下なのか、という話だ。


産まれた時から既に僕の周りには、目上か目下…どちらかの人間しか居なかった。
ヒューゴは目上。
執事であるレンブラントやメイド達は目下。
マリアンは特別ではあるが…それでもやはり目下には違いない。
客員剣士になって、出会う人間が増えてもそれは変わらなかった。
セインガルド王は当然として、七将軍も目上。
兵士達は目下。
民間人も僕の認識では目下だし、犯罪者など言うまでもない。
特に馬鹿女は構うのも面倒だ。


しかし。
そう、しかしだ。
話は冒頭に戻るが、その犯罪者(被害者込)の筆頭である筈のスタンに限り、いまだ僕の中でまだ目上目下の認識がなされていない事に気付いたのが、スタンも寝ついた今さっき。
半無意識に即刻分類している僕が、数ヵ月経ってまだ分類していないのは(今まで気づかなかった事も含め)異常だ。

『坊っちゃんはスタン大好きですもんね』
「黙れ」

茶々を入れてきたシャルをブン投げて黙らせると(この辺スタンに似てきた気がする)、ベッドで寝るスタンを見つめながら思考を再開する。

目上は断固絶対にない。
というか目上であれば殴ったり電流流したりなんかしないだろう。
………考えるだけ無駄だったな……
ただ、なら目下かと言われたらそれもピンと来ないのが妙だ。
散々罵倒したりしているのだから目下と言えなくもない筈だが、僕の感覚はそれを否定する。

何でだ?

反論されているからであれば、馬鹿女だって文句くらい言ってくる。
聞く価値もないから流すがな。
スタンに言われる文句だって……

『もう少しみんなの話を聞いた方がいいぞ?』
うるさい、興味がないな。

『仲間を何だと思ってるんだ!』
仲間だなんて、思っていない。

『一人で背負いこむなよ!』
……お前に、僕の何がわかる。

『言ってくれなきゃわかんないよ』
言うつもりなど……あぁ、何て事だ。
僕はスタンに言われた事を、何一つとして流せていない。
聞いて、記憶までして、つっかかって。
本音をぶつけてくるスタンに、僕だって遠慮なく言葉をぶつけていた。
そうやって毎日のように口論していたのに不快にもならなくて。
それが当然の様にすら感じている程だ。

…待て。
そもそもそれがおかしい。
言い合うことが当然?
それじゃあまるで対等みたいな……

「馬鹿馬鹿しい」

そこまで考えて、僕は溜息と共に思考を放棄した。
気付いてはいけない事に思考が触れた気はするが気のせいだ。
僕があいつと対等などと……あぁいかん考えるな。
対等なヤツがいたら、僕は甘えてしまうかもしれない。
そうなったら…きっと、後々悲しませる事になる。
だって、この旅が終わったら事は起きるのだ。
共になど居られないのだから。
悲しみたくないし、悲しませたくはない。
…いや、スタンなどどうでもいい…筈、だ。
…こうまで考えてる時点でどうでもよくはない…のか?
どうでもいいなら甘えてもいい…いや、どうでもいいヤツに甘える道理は……
あぁ、わからない。
…と、頭を抱えたその瞬間。

「……さっきからどうしたんだ?」

突然聞こえた寝ボケ声に、僕は体を震わせる。
恐る恐る顔を上げると、スタンは顔だけこちらに向けて、眠そうな瞳で僕を見つめていた。
普段は例え何か爆発しても起きないくせに、よりによってこんな時に……
ただ、まだ半分以上寝ているらしいのは幸いだ。
恐らく何をしても、コイツは今のことを綺麗に忘れているだろう。
…そんな状態でも僕の心配をするのか、お前は。

「…何故だ?」

何故、そうまで僕を気にかける。
そうだ、お前がそんなだから、僕も対等だと錯覚してしまうんだ。
理由を知れば、やはりコイツを目下だと思えるかも知れない。
仲間だなんだと言われれば鼻で笑ってやれるんだ。
しかしスタンは、普段以上にしまりのない笑顔を浮かべて…言った。

「お前が好きだから、ほっとけないんだよ」

……は?

「それは、どういう…!!」

尋ねる前に夢の世界に旅立ったスタンを殴る気も起きない。
それくらい、僕は動揺していた。
好きだ、なんて…初めて言われたから。
そして…不本意にも、凄く嬉しくて。

「…僕も…好きみたいだぞ」

今自覚したばかりだ、断言は出来ない。
どうせ忘れるだろうから、僕は素直に口にしてやった。
もしも覚えていたら…その時はコイツも悪いんだ、と開き直ってやる。
そう決めたら少し眠くなってきたので、僕は暖かいスタンのベッドに潜り込んだ。

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