無双の間
□【融合されても世界は廻る】
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『お節介な彼女』
魔王・遠呂智によって歪められ融合されたこの世界にも、四季は存在した。
大坂城の濠を散った紅葉が一面覆い尽くす。吹き抜ける風の身を切るような冷たさが、冬の訪れが近いことを告げていた。
そんな中でも夏の最中のような半裸で平気な顔をしているのは、三国は呉の武将・甘寧。
先の遠呂智軍襲撃で破損した大坂城に、修繕用の木材を届けに来たのだ。
今は同行した陸遜や凌統らと共に、工兵を指揮し補修を手伝っている。
「っかし戦国の城ってな、面白れえ造りだよなあ」
雲を突くような天守閣を見上げて独りごちる甘寧の背後に、忍び寄る小柄な影が一つ…。
「こらあ、甘寧!」
「おわっ!?」
驚いて振り向くと、この大坂城の主・秀吉の正室、ねねの姿があった。両腕には、何やら大量の着物を抱えている。
「この寒い日に裸みたいな格好して!風邪ひくよ!」
「へっ、風邪なんざひいたこたぁねえよ。鍛えてっからな!」
甘寧はそう厚い胸を張ってみせたが、ねねは聞く耳を持たない。
「たくもう、親に貰った体にそんな落書きして!」
「らっ…落書き!?」
自慢の刺青を落書き呼ばわりされ、甘寧は思わず顔を引き攣らせる。が、ねねはお構いなしに抱えていた着物の中から一枚を選び、突き出した。
「ほらっ、これでも着ときなさい!」
それは綿のたっぷり入った半纏…所謂、「どてら」であった。紅葉にも勝る鮮やかな赤い布地で、背には大きく「龍」の一字が刺繍されている。
「呉の子は皆寒そうな格好してるから、急いで縫ったんだよ」
「…おめえも寒そうな格好だろ…」
太股も露わな衣装のねねに言われたくはない、と甘寧は小声でツッコんでみるがやはり通じない。
「ほらほら、早く着ないとお仕置きだよ!」
有無を言わさず着せられてしまった。
「いや、だからよ」
「よーしっ、これで甘寧は大丈夫だね!次は…あっ、陸遜!」
新たなターゲットを発見したねねは、甘寧の虚しい抵抗を爽やかにスルーして陸遜を追って行ってしまった。
「こら、陸遜!この寒い日におへそ出して歩いて!お腹壊すよ!」
陸遜も反論を試みているようだったが、勝敗など目に見えている。