無双の間
□【コヒビトたちの春夏秋冬。】
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こんな時間に誰が、と訝りながら凌統が覗くと、呂蒙と陸遜が並んで立っているではないか。凌統は慌てて戸を開けた。
「メリークリスマス☆凌統殿!」
「お、おう。メリークリスマス伯言…ってどうしたんですか?二人揃って」
「ああ、さっき甘寧を車でここまで送ったんだがな」
「あ、そういやそんな事言ってた…スイマセン呂蒙さん、うちの馬鹿がご迷惑かけちゃって」
「いや、社長に勧められて甘寧も断れなかったんだんだろう。それより」
呂蒙は手に提げていたものを凌統に差し出した。
見れば、微妙に角のひしゃげたケーキ屋の箱だった。鮮やかなブルーの地に白でトナカイがプリントされた綺麗な箱。
「クリスマスケーキ…ですか?」
「甘寧が帰りに買ったんだが。後部座席に置き忘れていたのを見つけてな」
「それでわざわざ届けに来てくれたんですか!?スイマセン重ね重ね…!」
「いや、なに。久々にお前の顔も見られたしな…仲良くやってるようで何よりだ」
「仲…良いかなぁ」
「甘寧の奴、開いてる店を探して走り回ってたんだぞ。サンタの衣装のまま」
「どの店ももう閉まってて、買えた頃にはすっかり酔いが廻っちゃってフラフラだったから、呂蒙殿が送って差し上げたんですよねっ♪」
陸遜がニコニコ笑いながら続ける。
「甘寧殿ってば『日付が変わる前に凌統とケーキ喰うぞ〜!』って叫びながら走ってたそうですよ?」
超ラブラブじゃないですか〜と笑う。
「……あの馬鹿…」
凌統は顔が赤くなるのを感じる。
「何かもう…色々すみません…」
「あまり甘寧を叱らないでやれよ」
呂蒙はそんな凌統を優しく見つめる。
「あ…ちょっと上がっていって下さいよ。これ届けてもらったしお茶くらい…」
「いや、それが…」
「私たちこれから旅行なんです♪」
朗らかに陸遜は言って呂蒙に寄り添う。
「旅行?」
「年末年始の2週間をヨーロッパで過ごすんです♪お正月会えませんから凌統殿にご挨拶を、と思いまして」
それで先程から機嫌が良かったらしい。
「そりゃ豪勢だねぇ。楽しんできなよ」
「ええ、凌統殿にはお土産沢山買ってきますから楽しみにしていて下さいね!」
二人が車に乗り込むまで見送り、凌統は部屋に戻った。
箱を開けてみると、小さなホールケーキが入っていた。少しだけ端が崩れているが形は保っている。
「Merry Christmas」のチョコプレートも、砂糖菓子のサンタもついていた。
転げ落ちそうな苺を摘み上げて口に放り込むと、甘酸っぱい味が広がる。
「かーんね〜。起きないと1人で全部喰っちまうぞ〜?」
言いながら甘寧の頬を抓ってみる。甘寧はムニャムニャと口を動かしたが、目を覚ます気配は無い。
「はは。アホ面…」
でも今夜は、サンタと呂蒙さんに免じて許してやろう。
凌統はケーキを皿に移しカバーを掛けて冷蔵庫に仕舞った。
(この馬鹿が起きたら一緒に食べよう)