無双の間
□Wonderful Halloween!
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バンパイア、どうか私の血を吸って(左三)
帰宅した同居人を出迎えた左近は、彼が鮮やかなオレンジ色の紙袋を提げているのに気づいた。
「何です?それ」
「ハロウィン用の衣装だ…会社で仮装させられることになった」
告げる顔は沈鬱そのものだが、左近は楽しそうでいいですねぇと笑う。
「何が楽しいものか」
上司達のお祭り好きにも困ったものだ、と三成は嘆息する。
「強制参加ですか?」
「自由参加の筈だが帰りがけに、おねね様にコレを渡された」
実にイイ笑顔だった。
「ほぼ強制ですな」
「逆らうと後が怖い…」
正則の馬鹿などは大喜びして、その場で服を脱いで着替えんばかりだったが…と遠い目をする。
「ご愁傷様です。衣装、見てみていいですか?」
「ああ、構わん」
許可を得て袋の中を覗いてみる。
純白のドレスシャツと黒のスラックス、艶々したベロアの黒マント。
緋色のリボンタイに白絹のグローブ。
ご丁寧に、尖った犬歯の輝くマウスピースと顔色を蒼白に見せるパウダーまで揃えてあった。
「ドラキュラですね」
「まぁ仮装としてはマシな方だな」
フランケンの正則や魔女のドレス(ミニ丈)を渡されて青ざめていた清正に比べれば、寧ろ大当たりと言っていいだろう。
「ふむ、しかし殿はドラキュラより吸血鬼に狙われる貴族の令嬢とかの方が似合いそ…痛たた!」
「何故俺が令嬢なのだ!気に食わん」
「ちょ、痛いですって!胸毛毟らんで下さい!」
地味にダメージ大きいんですよその攻撃、と若干涙目になった左近の顔を三成の切れ長の目がジッと見据える。
「…?何です?」
「左近、禁煙しろ。酒も控えろ。そして野菜中心の食生活に切り替えろ」
「え?え?」
急に下りた生活改善命令に困惑する。叱られる程不摂生をしているつもりは無いのだが。…禁煙は挫折したけど。
「俺が吸血鬼なら当然、左近の血を吸うだろう」
当然なのか。
「想像すると気分が悪くなった。苦そうだし脂っこそうだ」
「え、酷い」
飲んだことも無いのに…と左近は肩を落とす。
「わかりました…左近は殿に美味しく血を召し上がって頂けるよう、努力しますよ」
「そうしろ」
涼しい顔で左近のハートを抉った美しい吸血鬼は「腹が減った」と食事を要求してくる。
とりあえず今日のところは血ではなく、血のように赤い麻婆豆腐とトマトのサラダを召し上がって頂くとしよう。
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