漂白の間
□ある春の日に
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しぃん…と静まり返った空気。
朽木邸のまた別の一室、広々とした板敷きの間にルキアはいた。
ひやりと冷たい床の上に正座して、細くたなびく線香の煙をじっと見上げている。
この屋敷の規模からすれば随分と慎ましい印象を与えるその仏壇が、祀られた女性の生前の為人を偲ばせた。
その女性…白哉の妻・緋真がルキアの実の姉であると知ったのは、朽木家に養女に来てかなりの年月が経ってからの事。
『私が姉だとは、明かさないでください』
『ただ、護ってやってください…』
彼女の最期の願いを…。
兄様はどんな想いで叶えてこられたのだろうか。
どんな想いで、今日まで自分を見守ってくださっていたのだろうか…。
真相を知ってから、白哉と一緒でなければ決して足を向けることのなかったこの仏間を、ひとりで訪れるようになった。
自分を捨てたことを最期まで悔やみ続けていたという姉に。
恨んでなどいないと伝えたくて。
「緋真様……姉様」
お幸せでしたか。
…訊くまでもない、ですよね。
「私達も、おふたりのように…幸せな家庭を築いてゆきます」
桜の花が雪のように舞い散る頃。
ルキアは嫁ぎ、この屋敷を出る。