鋼鉄の間
□ワンダフル ジニア
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他にも泣き黒子の青年やマスクで顔を隠している胡散臭い高校生といった何人もの常連から、同じ造花のカーネーションを贈られた。
いつも美味しいもの食べさせてくれて有難う!と笑顔で手渡してくれる客もいれば、明らかに持って帰るのが面倒なだけという風情の客もいたが、その誰もに、丁寧に礼を言って受け取った。
体を壊した両親に代わって定食屋を継いで以来、苦労も多かったが、このカーネーションの数だけ贔屓にしてくれるお客様がいると思えば、報われた気にもなる。
閉店時刻が迫り、店内を片付け始めた頃になって客が飛び込んできた。
「まだいいよな?」
店主の返答を待たず入ってきた巨躯の常連客から「ほらよ」と押しつけられた花を見て、あれ?と思う。
赤ではなく明るいピンク色の、造花ではない本物のカーネーション。
「これ、本物ですね」
「あーん?見りゃわかんだろうが」
そんなことより早く飯を食わせろ!と横柄に要求する太史慈にとりあえずビールと白和えを出す。
「これも駅前で配ってたんですか?」
「知らねえよ」
「太史慈が自分で買ったんですか?」
「…知らねえっつってんだろ!いいから飯!男のスタミナ定食!」
「…はいはい」
答える気が無いらしい、と察して、手早く注文の料理を作る。
レバニラ炒めにキムチ、根菜と油揚げ入りの豚汁の定食は、もともと店にあったメニューではなく太史慈のリクエストから始めたものだ。
(何だろう、他のお客さんに貰った時は嬉しかったんだけどな)
太史慈から母親扱いされるのは何故だか、複雑な気がする。
それでも、「お待ちどおさまです」と出した料理を旨そうにガツガツ平らげてくれる姿を見れば、まぁ良いか…と思う。
たった一つの本物の花。
家に帰ったら早速、活けてあげなくては。
花に顔を寄せて無意識に微笑む呂蒙に、太史慈も気づかれないように顔を伏せて笑った。
おしまい.