無双の間
□恋を、一服。
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突如出現した魔王・遠呂智によって異世界へ飛ばされてしまった大坂城。
その一室で、日々黙々と執務をこなす三成の元に珍客が訪れたのは晩秋のある日のことだった。
「やあ…」
「…貴様は確か呉の…凌統とかいったか?」
所在なさげに三成の様子を窺うのは、三国は呉の武将・凌統だった。
「…何用か知らんがさっさと入って襖を閉めろ…。冷える」
「あ、ああ。悪いね」
凌統は慌てて部屋に入ると襖を閉めて、畳に腰を下ろした。
「…呉からの遣いか」
手元の書簡に視線を落としたまま、三成が問う。
「いや、私事なんだけどさ…忙しそうだね」
「ふん、遠呂智のお陰でな…。やる事は山積みだ」
不機嫌極まりない様子の三成に、凌統はそわそわと膝を動かした。
「それで?貴様は俺に何の用だ?」
「いや、あー…忙しいなら出直すよ。大した事じゃないんでね…」
「耳は空いている」
表情を変えぬまま、三成はそう答えた。
「話があるのなら早く済ませろ。時が惜しい」
その言葉に、凌統は上げかけた腰を再び下ろし、気恥ずかしそうにやっと口を開いた。
「実はその…あんたにね」
「…成る程」
話を聞き終えると、三成は頷いた。
「いいだろう。付き合ってやる」
「え…本当かい?悪いね、忙しいのに」
喜色を浮かべて礼を言う凌統を見つめて、三成は小さく咳払いした。
「…その代わりと言っては何だが。俺も貴様の手を借りたい事があってな」
「三成さんが俺に?」
「ああ…、実はな…」