無双の間

□Wonderful Halloween!
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黒猫ニヤリ(両兵衛)


「お菓子をくれなきゃ…悪戯しちゃうよ?」

「甘納豆でいいか?」

「渋!チョイス渋すぎるよ〜官ちゃん」

笑いながらも、己の差し出した甘納豆を半兵衛は嬉しそうに頬張った。

「うん、美味ひいね」

「それは結構。食べたら勉強を再開するぞ」

官兵衛は手元の参考書に視線を落とす。
勉強をみてくれるというから部屋に上げたのに、この無邪気な先輩は先程から、官兵衛のベッドを占拠して怠惰な猫のように寛ぐばかりだ。

「ホント真面目だよねぇ官ちゃんは」

くすくすと降る笑い声。
見た目も雰囲気も実年齢より遥かに上に見られる自分を、半兵衛はまるで小さな子供を呼ぶように「官ちゃん」と呼ぶ。

最初は反発していた筈のその呼び名は何時しか耳に馴染んだ。そう呼ぶ声が聞こえない日はどこか味気ない、などと思ってしまうくらいには。

「…入院は、来月からだったな」

「そうだよー」

視線を上げぬまま洩らした問いに、明るい声音が返ってくる。

「今回は検査だから三泊なんだけどね〜。ついでに久々に家族皆でランド行こう!って、母さんがはしゃいでてさあ」

病院からランドに直行ってあり得ないよね全く、と半兵衛は笑う。

呆れたような口調を作ってはいるが、離れて暮らす母や弟と久々に会うのを内心楽しみにしているのが伝わってきた。

「まあそういう感じなんで一週間くらい向こうにいるから。俺がいなくて寂しいからって泣いちゃダメだよ?」

「泣くかもしれん」

静かに告げると、半兵衛がギョッとしたような顔で官兵衛を見たので、胸のすく思いだった。

辛かろうが悲しかろうがどんな時でも笑っているこの先輩の、笑顔以外の表情を暴くことに喜びを感じるようになったのは何時からだろうか。

甘やかに自分を呼ぶ彼の声を心地好い、と感じるようになったのと、同じ頃かもしれない。

「官ちゃん性格悪くなってない?揶揄うのは俺の役割なのにー」

してやられたーと半兵衛はベッドに突っ伏し、足をばたつかせた。

「私は菓子など要求せぬからな」

「何それ選択の余地ナシじゃん俺」

ぷう、と頬を膨らませて半兵衛は砂糖の衣が銀色に光る甘納豆をまた一つ口に放り込む。

「…甘い。美味しい」

官兵衛は知っている。

半兵衛は甘党だがチョコやクリームを使った菓子は実は苦手なこと。

白玉や芋羊羮や果林糖、そして甘納豆が好物だということ。

「今から言うことは悪戯ではないが」

「うん」

「帰りを待っている」

「…うん。帰ったらまた甘納豆食べさせてね」

「ああ、また作る」

「え、作ったの!?」

「冗談だ」

「…ああもう!またやられた!」


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中高生両兵衛
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