無双の間
□冬の或る夜
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「12月25日」
日付の変わる一時間前。
寒風の中、ぐるぐる巻いたマフラーに顔を埋めてやっと家に帰り着くと、ドアにやたらメルヒェンな可愛いリースが飾られていた。思わず部屋番号を確認した。間違いなく自宅である。
「よぉ、遅かったな」
出迎えた甘寧はこの寒いのにパンツ一丁だった。寒がりの凌統からすれば正気の沙汰ではないが、毎年のことなので見慣れてしまった。
「ただいま…あの、ドアの何なの?」
「ささやかなクリスマスプレゼントです、とかって職場の後輩に押しつけられた」
「女の子?」
「いや、野郎。身の丈2mはありそうな強面」
「へええ」
「しかも手作り。手芸が趣味なんだと」
先程見た、リボンや鈴やフェルト地のマスコットに彩られた愛くるし過ぎるリースを、ゴツい大男がちまちま作ったのか。
「人は見かけによらないを地で行く人だね…」
「なーんか今日はやたら貰い物する日でよ」
甘寧は炬燵の脇に放ってあった大きな鞄を開き、中身を食卓に並べた。
「あ、ハムがある」
「それは周瑜から、歳暮でハムが重なりまくったっつって配ってたぜ」
「このワイン高そう」
「陸遜の旅行土産だと。オッサンに貰った」
他にもタッパーに詰めたサラダだのローストチキンだのチョコだの、少々焦げたパンだのが続々と出てくる。
「何これ貰いすぎでしょ…あんた、職場でそんな慕われてんの?それともロクなもん食ってないと思われてんの?」
「日々善行積んでっからなー。良い子のとこにはサンタが来るんだよ」
「良い子って歳か。ま、中身がガキって意味なら合ってるね」
「せっかくだから食おうぜ、晩飯まだだろ?」
凌統の毎度の憎まれ口を気にする風もなく、甘寧はグラスを2つ用意してニヤッと笑う。
「…。思いがけずクリスマスぽくなったね。今年は何も出来ないと思ってたけど」
「今年は修羅モードだったからな…。去年は温泉入って酒飲んで、呑気だったよなぁ」
「あー温泉…。また行きたいなぁ…良かったよねあそこ」
「飯も旨かったしな」
ほかほか湯気の立つ温泉を夢想しつつ、フォークや皿を並べ料理を温めて夜更けの晩餐のテーブルは整っていく。
「これでケーキも貰えてりゃ完璧だったな」
「流石にくれないでしょケーキは。どんだけタダで揃えるんだっつの」
笑いながら適当にワインを注いで、適当に乾杯の音頭をとる。
「そんじゃ一応…メリークリスマス」
「メリークリスマス」
かちん、とグラスの立てる軽やかな音が響いた。
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