漂白の間
□きれいなあの娘は造りもの。
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「ん……」
ーいつものように。
目覚まし時計のアラームが鳴るより前に起き出すのが、石田雨竜の毎朝の習慣。
その朝も、いつものように六時少し前に覚醒した雨竜が重い瞼を上げた…瞬間。
「お目覚めですか?」
「!?…うわあぁっ!?」
顔に触れそうな至近距離にある無表情な顔と豊かな胸の双丘に、雨竜は肝を潰し叫んでしまった。
一瞬飛び起きそうになったが、そうするともろに神々の谷間に顔を突っ込む体勢になってしまう。
雨竜は横にごろごろ転がり壁に思い切り激突してから、身を起こした。
「き、君は…ネムさん!?」
「はい。涅ネムです」
いつものミニの着物姿に長い三つ編みを垂らした涅ネムが、平然と雨竜の布団に正座している。
雨竜はパジャマ姿のまま身構えて、寝起きの混乱した頭でこの状況を把握しようと努めた。
まず、ここは紛れもなく自分の部屋だ。寝る前と比べ何ら変わったところはない。
体にも異変は無い。つまり寝ている間に尸魂界に来てしまったとか、そういう訳ではなくて…つまり…だから…。
「なっ…、何勝手に人の家に上がり込んでるんだ!不法侵入だぞ!」
まだ少し混乱しながらも雨竜はネムを詰問した。
「よくお休みでしたので、起こすのは悪いかと思いまして」
「忍び込む方が悪いに決まってるだろ!」
「そう…ですか」
悪びれた風もなく、首を傾げるネムに軽く脱力しかける。が、雨竜は背筋を伸ばし重ねて問うた。
「…僕に一体何の用です。涅マユリの差し金…ですか?」
雨竜にとって仇とも天敵とも言える狂気の科学者の顔を忌々しく思い出しながら訊いたが、ネムは首を横に振った。
「いえ。今日の私は十二番隊副隊長ではなく、女性死神協会の副会長代理として参りました」
「女性死神協会?」
「はい」
ネムの黒目がちの目が、きらりと光る。
そういうものがあるとは知らなかった。
死神の世界にも労働組合や協会があるのだろうか…雨竜の中でまた一つ、死神に対して抱いていたイメージが覆された。
そんな雨竜に構わずネムは淡々と言葉を続ける。
「我が協会の会長が、現世には『くりすます』なる祭があると聞いて、大層興味を持たれまして」
「……祭。まあ、そうだけど…」
「隊長の発案で、女性死神協会主催の『くりすますぱーてぃー』を開くことになりまして。私は衣装と小物担当になり、その調達の為に現世にやって来た次第です」
「………はあ…」
今度こそ、完全に雨竜は脱力した。
死神がクリスマスを祝うというのもどうなんだ…そんなに暇なのか…?
色んなツッコミが雨竜の頭に浮かんだが、それを口にしたところでネムに通じそうにも無い。
しかし、ネムが『現世に来た理由』はわかったが『雨竜の部屋に侵入した理由』がわからない。