鋼鉄の間
□猫々的生活?
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…何かがさりさりと鼻に触れるくすぐったい感覚に甘寧は目を覚ました。
「ん…凌統…?」
昨夜、一緒に眠った凌統が自分を起こそうと悪戯をしているのだろうか…と重い瞼を上げた甘寧が見たものは。
空のように青く桃の種のように丸い瞳と、小さな桜色の鼻。ぴんと立った竹批の耳。
透き通ったひげはぴんと伸びて、これが先程から甘寧の鼻先をくすぐっていたらしい。
「……猫?」
そう。
甘寧の顔を覗き込んでいたのは、ほっそりと小さな黒猫だった。
この邸で飼っている猫ではない。
何処やらから迷い込んだのかと思ったが、野良にしては毛並みが美しい。
甘寧は内心首を傾げながら猫を退かし、起き上がった。隣に寝ていたはずの凌統の姿は見えない。
「凌統…」
「ナァン」
甘寧が凌統を呼ぶと黒猫がまるで応えるかねように小さく鳴いて、膝の上に乗ってくる。
その細い頸に緩く巻かれた青い巾に気づき、甘寧はハッとした。
凌統がいつも着けている鉢巻だ。
「り…凌統!?」
「ナォ」
甘寧は猫を抱き上げ部屋を見回した。
床の上に、凌統の夜着が散乱している。
「…凌統!居ないのか!?」
「ンニャ〜オ!」
凌統の名を呼ぶ度に黒猫が返事をする。
「…まさか…お前は、凌統なのか…!?」
「ナォン」
甘寧は愕然とした。