鋼鉄の間
□古書の夢
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誰もいない午後の図書室の、しんと静かな明るさが好きだった。
本などあまり読まない方だが、かったるい授業を抜け出して昼寝をするには格好の場所。
よく晴れた秋の終わりの月曜日、甘寧はいつものようにサボりを決めこんで図書室にやって来た。
さて、どの本を枕にしようか…と視線を巡らすと折り目正しく並んだ長方形の卓の上に、誰か置き忘れたものか一冊の文庫本を見つけた。
近寄って本を手に取った甘寧は首を傾げた。
この高校は歴史が浅く、図書室にある本も比較的新しい品が多いのだが、その本にはカバーも無くページは黄ばんで随分と古めかしかった。
著者名や発行された日、出版社名などは見当たらず学校の所蔵印も押されていない。
誰かの私物なのか。
唯一、明記されているのは題名のみー
「六駿…演義?」
奇異に思いつつも興味を惹かれて、甘寧はその本を開いた。
「…寧、甘寧…」
笑いを含んだ低音が耳をくすぐる。
甘寧ははっ、として顔を上げた。
「珍しいな、お前が居眠りとは?」
「こ、黄祖様…申し訳ありませぬ…!」
甘寧は慌てて身を起こした。塩辛い風が耳を飾る鈴を鳴らし吹き抜ける。
見張り台の上で不覚にも眠ってしまったらしい。
「はは、よい。疲れているのだろう」
甘寧に向けられる黄祖の表情は、穏やかそのものだった。
「夢を見ていたのか?時折寝言を言っていたが」
そう言われて甘寧は顔が赤くなるのを自覚する。
どれほどの時間、主君に寝姿を晒していたのか。
「…夢…」
言われれば見ていたような気もする…が、内容はまるで思い出せない。
そう答えると「夢とはそんなものだな」と黄祖はまた笑った。