鋼鉄の間

□白きベールの下で
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凌統の日記

朝の光が燦々と差しこむ台所。
「うっし、完成と」
おれが味噌汁の火を止めて棚から皿やら椀やらを取り出していると、弟の姜維が起き出してきた。
「姉さん、おはようございます。美味しそうな匂いですね」
「おはよ!ちょうど出来たとこだぜ」
ほかほか湯気の立つ玉子焼きを切り分けていると、姜維も横に来て手伝ってくれる。素直でよく気のつくいい子だ。おれの教育の賜物、なんてね。
「そういえば、義兄さんはまだ起こさなくて良いんですか?」
あ…そうだ。
寝起きの悪い夫(と呼ぶのはまだ照れくさい…)を起こすのは毎朝の一苦労。特に昨夜は遅くまで…いや何でもない!
一人赤面していると姜維が「あとは僕がやりますから起こしに行ってあげたら」と申し出てくれた。本当よく出来た弟持って幸せだ。
「じゃ、頼むな!」
おれはエプロンを外し、寝室に向かう。今朝はアイツをどうやって起こしてやろうか…なんて考えながら。
  

姜維の日記

あの男を起こすために姉さんが台所を出ていくと、僕は笑みを消して行動を開始する。
鰆の胡麻マヨ焼きににんじんのサラダ、フワフワの玉子焼き…味噌汁の具はなめこかな?
姉さんの作るものは何でも美味しい。

向かい合って座り、姉さんの顔を見ながら姉さんが作った朝ご飯をふたりで食べる。
それが僕の一番幸せな時間だったのに。あの男が僕からそれを奪ったのだ。
あの男…姉さんの「結婚相手」…甘寧。
とにかく気に障って仕方ない。同居するのもイヤだったが、姉さんと離れるのは僕には耐えられなかった。
 
汁椀に、僕と姉さんのぶんの味噌汁をよそう。
  
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