無双の間

□【コヒビトたちの朝昼晩。】
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「左近…タコ焼きを作るのは初めて、というのは本当だろうな…?」

「本当ですってば」

「実は俺と知り合う前にタコ焼き屋で働いていたとか、タコ焼き屋と付き合っていたとか…」

「そんな職歴も恋愛遍歴もありませんから!殿、ご自分が出来ないからってイジけんで下さいよ」

「屈辱だ…!」

左近の焼いたタコ焼きを食べながら、大いに拗ねた三成だった。


…その後、左近の指導を受け何度も練習を重ねたものの今ひとつ三成の腕は上達せず。

どうしたものかと悩んでいるところへ声を掛けてくれたのは、秀吉の妻にして社員食堂担当のねねであった。
三成の窮状を聞きつけ、知人のタコ焼き専門家とレクチャーを受けられるよう頼んでくれたのだ。
相変わらず謎の人脈だ、と思いつつ今回ばかりは有り難く従うことにした三成だったが…。

指定された日、久しぶりに秀吉宅を訪ねた三成を待っていたのは、幼いが勝気な少女と彼女による容赦の無いシゴキで。


「あーもー、何しとん!コゲコゲになってもうてるやん!そんなん、タコ焼きて言えへんからな!タコ炭やから!」

眦を吊り上げて叫ぶ少女の名は、卑弥呼。
13才にして全国チェーン展開するタコ焼き専門店の老舗・「たこやき耶馬ちゃん」を受け継いだ、敏腕中学生社長である。

就任時にはその若さゆえかなり話題になり、三成もニュースや経済紙などで顔は見知っていたが、実際に対面するのはこれが初めてだった。

インタビューではいかにも子供らしい天真爛漫な振る舞いをしていたが、取材媒介に合わせた的確な返答と自らの仕事への妥協の無さには、三成も感心させられた。


…だから。
この厳しいシゴキもまた卑弥呼の「タコ焼き」に対する妥協の無さの表れなのであろうけども。

「アホッ!何でアンタは一つ憶えたら一つ忘れてまうん!?アンタの頭は鶏かっちゅーねん!こんな出来損ないのタコ焼き、お客さんに食べさす気!?も〜止めや止め!時間と材料の無駄遣いや!タコが可哀想!」

年下の少女に浴びせかけられる罵詈雑言の嵐は、三成の自尊心をズタズタにするに充分だった。

(く、屈辱だ……!言葉にならぬ!)

普段、会社で若い自分にキツい駄目出しをされている年上の部下達もこんな悔しさを味わっているのだろうか。これからはもう少し、穏やかに話すことを心掛けよう…と、日頃の行いまで反省してしまう三成である。

「アンタには才能以前に聞く耳がないねん!この調子じゃ一生かかっても人様からお金取れるタコ焼きなんか作れへんわ。絶対に無理!」

「…!」

その一言に、三成は唇を噛み締めてグッとピックを握り直す。

「俺は…出来ぬと言われて引き下がったことなど無いっ!!」

瞳に闘志を漲らせ、決意も新たに鉄板へと向かう三成。

「もう一度機会を下さい師匠っ!」

「ええ根性や!よっしゃここまで来たらトコトン付き合うたるわっ!」


いつしか、二人の間には熱い師弟の絆が生まれ。修行は果てしなく続いたのだった…。





「……で、今夜も夕飯はコレですか…」

帰宅した左近は、食卓に並んだ大量のタコ焼きにそっと息を吐く。

三成が修行を始めてからというもの朝食も夕食もタコ焼きで、昼食さえもタコ焼きを弁当箱に詰めて持たされる始末。
昨日も今日もタコ焼き、これじゃ年がら年中タコ焼き…な状態である。

味の方はお陰で日々上達してはいるが、そろそろ見るのも嫌になりそうな左近だったが。


「…食べたくないのなら食べるな」

口の端にソースをつけて拗ねる三成が可愛くて。

「殿の作られたものを、食べたくない訳が無いでしょう?」

「…フン」


早く花見の日が来ることを祈りつつ、今日も笑顔でタコ焼きを食べる左近であった。



end. 
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