無双の間
□【コヒビトたちの朝昼晩。】
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「涙目」(甘凌)
涙目、というのに弱い。
特に凌統の涙目は。
ほとんど反則だと思う。
眉を切なげに寄せ、タレ気味の目の縁を赤くして瞳を潤ませているその顔は無条件でエロい。
…例え、その涙の原因が回転寿司で取ったイカの握りのワサビの量と辛さが想像を超えていた…というしょうもない理由であっても、だ。
「っは…!あ〜〜!」
相当刺激が強かったのか舌を突き出して荒い息を吐いているのも何となくエロい。
何か飲んで洗い流したいようだが、さっき注いだばかりの茶は猫舌の凌統には熱過ぎるだろう。
悪戯したくなる気持ちを抑え、お冷やでも持ってきてやろうと立ち上がりかけた時、凌統がサッと手を伸ばした。
その手は、レーンの上をぷるぷる震えながら流れてきたクリームプリンの皿を取り。
そのまま、ぱくりと口に放り込んだ。
「ぶっ…ははは!」
予想だにしないその行動に堪えきれず、吹き出してしまった。
プリンで辛さを紛らす奴なんて初めて見たぜ。
「笑うなっ」
凌統は顔を赤らめて抗議してくるが、笑うなって方が無理だろう。
…つうか、口の端っこに生クリームつけてんのがまた更にエロいな。
「せめてスプーンぐらい使えよお前。丸々かぶりつくか?普通」
「う…うっさいな、そんな余裕無かっ…」
凌統の言葉が途切れる。
俺に、顔を寄せてペロリと口元のクリームを舐め取られたからだ。
「お?意外とイケるな」
「あああ…アンタなあ!人前で何やって…!」
「誰も見てやしねえよ」
慌てふためく凌統に笑いかけるが、 凌統は周囲を窺うのに必死でこちらを見ちゃいない。
つられて俺が周りに目を遣った時、バイト店員の兄ちゃんが俺らから勢いよく目を逸らした。
「ほら見られてた!絶対見られてたよ今ッ」
「いいだろ別に。んな気にすんなって」
「普通気にするっての!次からこの店、来にくくなっちまっただろッ」
先程とは全く違う意味で涙ぐみそうな凌統。
そんな顔すっからイジメたくなるんだよなあ。
「…もう帰る」
「俺まだ一皿しか食ってねえぞ。何だ、さっきのでヤりたくなったか?」
「………」
凌統がちょっぴり剣呑な目付きで拳を固めるのが見えたので、揶揄うのはここまでにしとく。
「悪かったって。もちょっと食ってこうぜ、今日は俺が奢るからよ」
そう言った途端、凌統は浮かせかけた腰をすとんと下ろした。
現金な奴。
ま、可愛いけどな。
「すいません、注文いいですか〜。大トロと鮑とヒラメと雲丹と…」
「…おい!てめえ高いのばっかり…!」
End.