鋼鉄の間

□白きベールの下で
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甘寧の日記

愛しき新妻・凌統の手料理は世界一うまいと思っている。
今朝の味噌汁も絶品であった。独特のコクと、程良い酸味。爽やかな辛味が目覚めきっていない頭と体をしゃっきりさせてくれる。二杯めは何だか味がちょっと違った気もしたが。


「ご馳走さま」

片付けを手伝おうとして凌統に断固拒否される。夫に、家事などさせられないと思っているのか。意外と古風なのも凌統の可愛いところだ。
もしかしたら先日、凌統のお気に入りのケーキ皿のセットを皿洗い中に俺がことごとく割ったからかも知れないが。

出勤の準備を終えると、俺はソファで新聞を広げ読むふりをする。…ここからが問題なのだ。
横目で、隣に座る義弟の様子を窺う。姜維も登校の支度はとっくに終え、朝の情報番組に見入っているようだった。

「…姜維、そろそろ学校に行く時間ではないのか?」
そう言うと、姜維はにこやかに答えた。

「まだ大丈夫です。お義兄さんこそ会社に行く時間では?」
「…もう少しいい…」

嘘だ。既に時間ギリギリである。しかし何としても姜維より先に家を出るわけには行かない。

というのも…姜維がいる時は絶対に凌統は「いってらっしゃいのキス」をしてくれないのだ……アレがあると無いとでは、1日のモチベーションが違うというのに…!
苛々と新聞をめくるが、頭に入らぬ…時間は容赦なく過ぎていった。

「…姜維、遅刻するぞ?」
「お義兄さんこそ☆」

姜維の浮かべる笑顔に、悪意を感じた。
まさか此奴…わざとっ!?


(アナタの考えはお見通しなんですよ!)
(くっ、小舅め…!)

あと五分以内に家を出なければ遅刻確定だが。

「…今日は少し遅くなってもいい日だ…」
「そうですか、僕も部活が無い日は結構ゆっくりできるんですよ〜」

時間は無情に過ぎてゆく……。

(今家を出れば何とかぎりぎり…だが男としてこの戦い、逃げるわけにはいかぬ!愛する凌統のキスのために!)
(ううっ、無遅刻の皆勤賞が僕の誇りだったのに!…だけど、この馬鹿男には負けられない!)


…張りつめたリビングの空気、時計が残酷に時を刻む無機質な音だけが、響いているー。

  
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