もう一つのオレンジ

□九 夏の花火
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一護に会う決心が付いたのは

もう 辺りが真っ暗になってからだった

夜の河原に独り

一護はいた

「・・・一護」

花火大会はすっかり終わって

辺りは祭りの後の静けさであふれていた

「凛護っ 久しぶりじゃねーか」

私が呼ぶなり振り返った一護は

そのオレンジの髪をきらきら跳ねさせる

「お前 どこいってたんだ?

 それともお前もやってたのか? あの勉強・・・」

「やったよ 殺し合い」

「こ・・・殺し合いって・・・」

「殺し合いだろ」

「ま・・・まぁ・・・」

負けたというように一護は頭をかく

そよりと風が吹く

今夜は 涼しい

「・・・ルキア 行ったね」

「あぁ・・・」

一護の顔が暗くなる

「死神 強かったな」

「・・・あぁ」

「私たち 強くなったかな」

「・・・・・」

弱かった

私たちは

話しにならないくらいに

「そのために修行したんだろ」

「そんなの・・・

 そんなの本当に強くなったかわからないじゃないか!!」

思わず

感情が高ぶる

「私は強くならなきゃいけないんだ!!

 もう負けないために!!

 あいつらを殺す・・・」

そこまで言って 気づいた

私 本当にルキアのために強くなろうとしたのだろうか

ただ単に 悔しかったから

見返してやりたいから

そのためにではないのか

偽善に隠れた私利私欲

一護に会いたくなかったのは

それに気づいてしまうから

一護は本当にルキアを救いたいと思っている

なのに私は

私は・・・

「は・・・はははは」

己の汚さに笑えてくる

顔を 手で覆う

変わらない 私の カタチ

「・・・凛護」

一護が 私を見つめる

「凛護・・・

 俺はお前に感謝してる」

「え?」

「お前がいなかったら俺はたぶん・・・

 ・・・死んでた」

生暖かな風が

さらりと髪をなでる

「凛護が何を思おうと

 お前の力に俺は救われた」

そう言って一護は

気まずそうに目をそらす

「お前は結局誰かを救ってる

 ・・・それでいーじゃねーか」

小さく呟く声が

微かに聞こえる
 
「・・・はっ 生意気な」

「なっなんだよ!!」

死ぬほど嬉しい気持ちを隠した

精一杯の強がり

敵わない

やっぱ一護には敵わないや

胸の重みが

ずいぶんなくなった

ふと空を見上げると

月が 大きかった

「ねぇ一護 覚えてる?

 母さんが殺されたときの・・・」

「おふくろが? 

 あぁ・・・あんときあんま記憶ねぇっつうか・・・」

「じゃ い−や」

「・・・なんだよ」

わけわかんねぇと一護はぶつぶつ文句を言う

覚えていないのならそれでいい

謝る必要がなくなっただけ

覚えがないのを謝られても困るだけだから

「いや・・・

 ねぇ 親父元気だった?」

「はぁ?! お前っ家にも帰ってなかったのかよっ」

「帰ってたよ 寝に」

「寝るだけかよっ」

「遊子と夏梨とは遊んでた」

「・・・親父は?」

「・・・しらね」



きっと今

一護 親父のこと哀れんだな

「会うよ 帰ってきたら」

「あ?」

「ちゃんと向う

 親父とも お前とも・・・」

「・・・凛護?」

水面に月が反射する

きらきらと反射する

「・・・だから 帰ってこような」

一護に顔が見えないように

水辺へ近づく

一護の疑問の眼差しが背中に刺さる

「そしたら全部教えるっ」

「はっ?」

ばっと上を向く

月が 思った以上に眩しい

「今まで隠してきたこと

 あーんなことやこーんなこと

 全部ね」

「ちょっ なんだよっ 何のことだよっっ

 今すぐ教えろっ!!」

一護が掴みかかってくる

それをひょいとかわす

「だからー

 帰ってきたらっていっただろ」

「ふざけんなっ 凛護っ!!」

私は一護からするりと逃げる

ほんの少しの間の鬼ごっこ

こんな日が 

ずっと

続けばと

思う

だから

帰ってこよう

「行ってこよう 一護」

月を背負うように 立つ

「帰ってこよう」


































そしてもう一度ここで















夏の花火を

























































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