もう一つのオレンジ

□五 雨の記憶
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『ぎやぁぁぁぁぁぁ!!』

「はははっ」

私の斬魂刀は虚の汚い血で真っ赤だった

「ばーか 偉そうなこと言ってたわりには弱ぇじゃねぇか!!」

やっとコイツを引き裂ける

・・・楽しい

「ねぇ・・・そろそろ 死ぬ?」

動けなくなった虚に近づいて仮面にそっと触れる

これを割れば奴は死ぬ

でも まだ早い

「もっと 切り刻んであげる」

私は薄く笑った・・・

『小娘・・・甘いな』

「・・・ぇ・・・」

ズン

胸に重い衝撃が走った

辛うじて動いた奴の爪で胸を貫かれた

「・・っぐぅ・・・」

私はとっさに身を引いた

「げほっ・・・かっ」

そんなに傷は深くない

「てっ・・めぇ・・・殺す!!」

もう 殺してやる!!

『小娘 お前にそれが出来るのか?』

「あぁ?!」

いきなり生意気なことを言いやがった

ムカつく 

すぐに殺そう

斬魂刀を持ち直した時だった

「・・・母さん・・・?」

虚の先にはあの少女の姿ではなく母さんになっていた

「なん・・・で」

『ひひ・・驚いておるな

 わしは6年前のことなど憶えていない確かにそう言った筈なのに

 なぜこうしてお前の母親の姿を作ることが出来たのか』

動けないくせに 偉そうに言う

『教えてやろう・・・

 覗いていたのだ この爪で!!お前の記憶を!!』

「う・・・五月蝿い!!

 こんな場所に母さんを出すなぁ!!」

嫌だった

母さんが汚れていく気がした

だから消したかった

けど

消したくなかった

大好きな 母さん

だから怖くて斬魂刀が振れない

ザンッ

自分が血だらけになっても

ズンッ

母さんの血だらけはもう見たくない

バシュッ

母さん・・・会いたいよ・・・

ズン・・・

「・・・ぁっ・・・」

バシャン

いつの間にか雨が降っていて

仰向けに倒れこんだ地面には水溜りが出来ていた

その水溜りがたちまち私の血で赤く染まる

空が・・・真っ黒だ

もういいや

死んでもきっと母さんには会えないけど

もういいや

・・・疲れた

だって 斬魂刀(カタナ)を振るの 怖いんだ

奴の爪が振ってくる

私は静かに目を閉じた

雨水なのか涙なのか分からない雫が

頬を伝った












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