占いの館へようこそ‡遙か3‡
□占いの館へようこそ!
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ヒノエと敦盛は歩道横のガ−ドレ−ルの上を駅に向かって走っていた。
「よしえさん、なんで二人で行けって言ったんだろうな。そんなに信用ないなんて悲しいね」
「いや、ヒノエが危険だからという理由なら最初から私だけに頼むだろう…」
「ふうん、ま、いつものことだけどね…。よしえさんの不可解な言動は…、たんなるきまぐれって思っておくかな…」
「だが、こういう時は、決まって……」
敦盛が何か言いかけた時、100メ−トルほど先に先程の女性客が見えた。ちょうど信号が青になり、横断歩道を渡りだしたところだった。
二人は横断歩道を渡りきってから忘れ物を渡そうと、ガ−ドレ−ルを降りて少し後ろをついて歩きだした。
すると一台の車が止まる様子もなく横断歩道めがけて突っ込んできた。
「敦盛!!」
「わかった」
車に気付いた通行人達は悲鳴をあげながら急いで逃げ出したが一人だけサンダルが脱げ、転んで逃げ遅れた人物がいた。
ヒノエと敦盛が追いかけていた女性だった。
車が目前まで迫り、彼女は「ぶつかる!」と思い目を閉じた瞬間、
ドカッ キキッ−
シュ−−−
衝撃音とともに彼女の体がフワリと宙に浮いた。
「やっぱり姫君の手を離すべきじゃなかったね」
彼女は、なにが起きたかわからずにそっと目を開けると、先程見たばかりの顔が間近にあった。
状況がいまいち飲み込めずに、ヒノエに抱き抱えられたまま周りを見回すと、
小柄な体で車を押さえる青年がいた。
まさか彼が車を止めた・・?と彼女が思ったとき、
『ひゅ−』という口笛の後に、
「やるじゃん、敦盛。俺が女なら惚れてるね」
「…いや、怪我人がいなくてなによりだ。それより人が集まってきた。ここを離れたほうが良いだろう」
ヒノエは「立てるかい?」と彼女をそっとおろすと、髪飾りを彼女の髪にさしながら、
「蝶は魅惑の花に誘われて戻ってきたようだね」
と、笑顔を残し走り去っていった。
「…ヒノエ」
「…ああ」
お互い思っていることは同じだったが、言葉にはしなかった。
彼女が髪飾りを忘れたのは『偶然』で、それがなければ彼女を、追いかけることもなかった。
いや…それとも、別の理由をつけて追いかけさせることも……。
「異世界からきた俺たちを無条件で、受け入れてくれたぐらいだからね」
「…そうだな」
意図があるにしろ、偶然にしろ、どちらでもいいような気がして、二人はそのまま無言で店への道を急いだ。
店へ戻ると閉店作業を終え、よしえがシャッターを下ろしていた。
「お疲れ様」
よしえは何も聞かず、帰りましょうか、と二人の横に並んで歩きだした。
二人も何も言わずにそれに従った。
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