persona4
□berry
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俺が足立さんを誘拐したのは先週の事だった。
いつも通り仕事をサボりジュネスにキャベツを買いに来ていた彼に適当な理由をつけて家まで招き、背後から薬を嗅がせた。
そして手足を縛り、意識の無い彼をテレビに入れたのだ。
自宅の小さなテレビから押し込むのは骨が折れたが。
───動機は特に存在しない。
唯、彼の手が肩に触れた時に均衡を保っていた何かが切れた。
薬品やロープは越してくる以前に繁華街で知り合った奴に半ば強引に押し付けられ、実家に置いてもおけず、処分するにも出来ずに嫌々荷物に加えたものだった。
まさかあの当時はこれを使用する日が来るとは予想だにしていなかったが。
家のテレビから通じるこの場所には薄い霧が満ちているがシャドウの姿は一切見えず、何の気配もしない。今は自分等に危害をもたらす者ではないと感じたからなのだろうか。
寧ろ、此処は虚無が支配しているかのように見える。ひたすらに白い空間の先には白い闇が続いているかのようだった。
小さく空気が揺れる。
足元に転がしていた彼が目を覚ましたのだろう。
「おはようございます、足立さん」
自慢のにこやかな笑顔で冷たい地面に転がる彼に挨拶をしてみた。
何故か幽霊でも見たような目で俺を見返してきた。
おかしいな、女の子達はこれで落ちたのに。
「此れはどういう事だい?君・・・頭おかしいんじゃないの?」
なんとなく気に入らなかったから鳩尾を靴の踵で蹴ったら静かになった。
「何を言ってるんですか?足立さん。寝言はくたばってから言って下さいよ」
「そもそも此処は何処なんだい?どうして僕を・・・」
二度目の蹴り。最後まで言わせなかったから何を言いたかったのか分からなかったが、聞く必要は感じなかった。
「───ッのクソガキ!」
今度は渾身の力を込めて頭部を蹴り飛ばした。
綺麗な赤が舞う。
潰れた赤い果実のように鮮やかな彩りは俺の網膜にくっきりと焼き付き、軽い目眩さえ引き起こした。
更に俺は、自由の利かない手足を捩って荒く短い息を繰り返す彼をぞんざいに踏みにじった。
低く潰れた音が漏れる。
ごろん、と仰向けに蹴飛ばした彼の上に馬乗りになり、よれたネクタイを掴んで顔を引き寄せると彼の額を濡らす赤を舐め取った。
やっぱり鉄臭い味がした。
「・・・悪趣味」
(抉れたクランベリー)