頂and拍

□頭としっぽ論争は通じない
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「俺以外のヤツとキスするなんて、一体どういうつもりなの?鮎沢……。」


「いや、どういうつもりって言われても……その……し、仕方ないだろ?」


「仕方ない?そんな味わうようなキスしておいて……俺の時はすぐ離そうとするくせに。今ここで、そいつとのキスを忘れさせるぐらいに熱いの、してあげたっていいんだよ?」


焦がれるように自分を見つめ、「アイツの香りを消さなきゃね」と、熱を帯びた吐息と共にそう言葉を舌に乗せる碓氷に、美咲は壁のギリギリまで後退る。


「ほら、早く諦めておしおきの時間にしよ?」


「〜〜っ、いい加減にしろ、この変態ッ!//」



***


先程から壁際で攻防を繰り広げている、碓氷と美咲。美咲が紙袋越しに抱きかかえていた、口の部分が欠け餡が少し窺える鯛焼きは、碓氷の手によって既に没収済み。そんな鯛焼きを名残惜しそうに見つめる美咲に、碓氷の表情はますます不機嫌の色を増してく。


「そんなにアイツとキスしたいわけ?」


「だから変な言い方するなよ!// ただ鯛焼きを頭から食べてただけだろうが!」


「嘘……それなら少なくとも目元まではなくなってるはずでしょ?」


「だ、だってなんか可哀想な気がするじゃないか……頭がダメならしっぽから食えば良かったのか?」


どうしても熱いうちに鯛焼きを食べたい美咲は、さっさとこの問題にケリをつけようと、そう言って碓氷を見据える。しかし碓氷は「それもヤダ」と、美咲の手首を拘束する力を一向に緩めようとしない。


こんな無意味な言い争いをしている間に刻一刻と鯛焼きは冷めていくというのに、自分の顔はそんな鯛焼きとは対照的に無駄に熱が集まるのを感じ、美咲はせっかく買ったのに……と碓氷を恨めしく思う。ちょっと食べにくいが、こうなったら――……


「あ〜〜っ、もうじゃあお腹からだ!それなら文句ないだろ……って、ひゃっ!?//」


悲鳴にも似た小さな声を上げ、美咲は驚き身をよじる。それもそのはず。突然、セーターの下から碓氷の手が侵入し、美咲の柔らかな腹部を揉むように撫でたのだ。


「ふっ……やっ……お前っ……、自分が今何してるのかわかってるのか!?//」


「――わかってるよ?俺が今からする事に、鮎沢が声を上げないでいられるなら、アイツをお腹から食べても構わない。けど……感じやすいミサちゃんに出来るかな?」


ニヤリと愉しそうに笑う碓氷に、コイツわざと……!と、美咲は憤りを隠さず碓氷をキッと睨みつけた。だがそれも束の間……ぎゅっと固く拳を握りしめたかと思うと、美咲は急に肩を僅かに震わせ、何かを堪えるように俯いてしまう。明らかにいつもの美咲とは違う雰囲気に、碓氷は反射的に手を止めた。苛め過ぎたかな……?そう思い、碓氷は美咲の顔を「――鮎沢?」と気遣わしげに覗き込む。


「せっかく二つ………のに……。」


「……え?」


どこか苦し気な吐息と一緒に、美咲の喉奥から途切れがちに告げられる言葉。少し泣きそうにも見える美咲の表情に、碓氷は美咲の腹部に触れていた手を慌てて離し、美咲の左頬を包む温度へと変える。


「――ごめん、鮎沢……もう1度話して?」


「お願い」と、碓氷は美咲に優しく請う。そんな碓氷の服の袖口を、美咲はぎゅっと引っ張り、「お前が……」と言葉を洩らす。


「――うん、何?」


「鯛焼き……食べてみたいって、言ったんじゃないか……」


眉を曇らせ今度ははっきりとそう続けた美咲に、碓氷は自分の聞き違いなんじゃないか…と、少し驚いたように目を見開く。


「もしかして……俺のために、買ってくれたの……?」
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