会長はメイド様! 短編

□忘れ物
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生徒達が帰宅した後の学校は昼間とうって変わって静かだ。
授業がすべて終わってしまえば、校舎に留まる必要などないのだから当然と言えば当然なのだが。
ましてや今日は、最近世界で大流行してしまっている新型インフルエンザが、ここ、星華高校でも流行りだしてしまったため、すべての部活を暫くの間活動禁止とし、全校生徒完全下校4時としたこともあり、いつものような運動部のかけ声やボールの音も聞こえず、まさに“静寂”という言葉が相応しい状況だった。

しかし、生徒会長である美咲は明日の会議で使用する資料が出来上がっていなかったため、特別に許可をもらい未だ生徒会室で仕事をしていた。
ただし5:00までという条件付きで。
条件付きとあれば、それを守らないわけにもいかず、終わらない分は明日の朝やろうと思いながら仕事を進めていた。
故に、今校舎内にいる生徒は美咲だけ…のはずなのだが………


「……どうしておまえがここにいるんだ?碓氷」


普段と同様いつの間にか勝手に居座る碓氷に呆れのため息をつきながら文句をつける美咲。


「そんなの、ミサちゃんに会いに来たに決まってるじゃん」
「おまえの冗談は聞き飽きたな。私が聞いているのはどうして校舎に入れたのかということだ。全校生徒4時完全下校のはずだろ?」


話しかけてはいるものの、美咲の作業を進める手は止まらない。
現在の時刻は4時45分。残り時間15分ということで急いでいるのだろう。


「それ言うなら会長だってそうでしょ?」
「私は5時まで特別に許可をもらっている……ってあと15分しかないじゃないか!」
「手伝おうか?」
「役員でもないおまえに何ができるってんだ。だいたいおまえ、なんで校舎入れたんだよ!」


作業する手を進めながら、碓氷に対してほんの少し声を荒らげて問う。
いくら碓氷であっても、完全下校後の校舎に入るのには先生に何かしら聞かれる訳で、まさか「会長に会いに来ました」などと言ったら追い返されるに決まってる。


「忘れ物しましたって言ったら入れてくれたよ」


意外にも普通な返答に美咲は思わずため息をつく。
忘れ物一つで完全下校後の校舎に生徒を入れて良いものなのだろうか…
と、この目の前で食えぬ笑顔を見せる宇宙人に呆れてしまう。


「だったらさっさと帰れ。私は忙しいだから邪魔するな」
「わー。会長不機嫌。そんなイライラしてたら眉間の皺とれなくなっちゃうよ」
「誰のせいだ誰のっ!?」


持っていた資料を机の上に置いて碓氷を睨みつける美咲。


「でも…まだ帰れないんだよね…忘れ物とってないし」
「じゃあさっさととりにいけよ…」


碓氷の言葉に呆れ声で言葉を返す美咲。
すると碓氷は席から立ち上がり、資料を机に置いたため空になっている美咲の手をとって自分のほうに引き寄せる。
後ろに引っ張られた美咲の体は自然と斜めに傾き、後ろにいた碓氷にもたれるような体制になってしまう。
碓氷はそんな美咲の体に腕を回して後ろから抱きしめる体制をとった。


「な、なんのつもりだ碓氷っ!離せっ!仕事ができんだろっ!」


生徒会室でするにはなんとも恥ずかしい体制に美咲は身を捩る。
しかし結構な力で抱きしめられてしまっているせいで、そう簡単に逃げることはでないようだ。


「…もう時間だから終わりにすれば?それに…鮎沢が終わらないと俺も帰れないし」
「?…どういう意味だ?」


まるで自分のせいで帰れないと言っているような台詞に抵抗を止め、思わず首を捻って顔だけ碓氷の方を振り向く美咲。
しかしその無防備さが仇となり…


「…っ!?」


いきなり近づいた整った顔。
確認する間もなく美咲の唇に碓氷のそれを重ねられ、そっと触れるだけのキスをされた。
唇が離れると碓氷は真っ赤な顔の美咲を更に強く抱きしめる。


「だって俺の忘れ物って鮎沢のことだし。良い子だからもう俺ん家帰ろうね。かーいちょv」


満面の笑顔でそう言われ、美咲は言葉の整理に頭が追いつかない。
やがて碓氷の言った言葉を理解した美咲は赤くなりつつも腕に力を入れ、碓氷の体を無理矢理剥がそうとした。


「わたしは物じゃない!はーなーれーろー!」



生徒会室で発せられたその声は虚しくも碓氷の腕の中で消される結果となってしまう。



現在時刻5時。
さぁ、おとなしく帰りましょうか、お嬢様。



end

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