会長はメイド様! 短編

□花よりイケメン☆
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「ねぇ、あの人カッコ良くない??」
「わっ!ホント、超イケメン!!」
「ね!私服だけどどこの人だろう」
「ここら辺の高校生かなぁ…」


全国的にも名のある有数の紫陽花(アジサイ)の名所。
公園であるこの場所は、毎年時期になると全国各地から数多くの花見客が訪れ、普段とは一味も二味も違う賑やかさを放つこととなる。
昼間明るい時に見る紫陽花も勿論見物なのだが、夜にライトアップされる紫陽花は誰もが声を上げる程に絶景である。
中には一般人だけでなく学生や、親子連れなど年代は様々。
特に今日は昨日まで降った雨が上がり、適度に濡れていい具合に水滴が付いているため格別である。


そんな中、一際目立つ存在がいるらしく、冒頭のような黄色いひそひそ声が本人からは少し離れた場所で女子高生の間で交わされている。
花よりイケメンとでも言うかのように、長身のその姿は女子高生達にとっては花よりも見映えがしているようだ。
しかし噂の主である彼にとってそんなことはどこ吹く風。
彼の目に映ってるのは目の前にいる、おそらく彼女であろう女子学生の姿のみ…


「だからおまえは!!!人前でひっつくなって言ってるだろうが!!」
「えー、会長が迷子にならないように側に寄り添ってあげてるのにー」
「い・ら・ん!!いいからとにかくもう少し離れろこの変態宇宙人!!」


……とにもかくにも、イケメン男子生徒にとっては自分が噂の種になっていることなんてどうでもいい話。
それよりも、今この時間を彼女とどのように過ごすかということで頭はいっぱいのようだ。


「にしてもすごい人だな…」
「まぁここは今日がちょうど見ごろって言ってたしね」
「そうなのか?」
「見事に土日だしいつも以上に混んでるんだろうねー」
「なるほどな…っ…っうわ!?」
「!!?、鮎沢っ!!」

ガシッ

「っと…わ、悪いな碓氷…」
「ほらね。こーゆーこともあるんだから。俺が遠かったら困るでしょ?」
「う…か、勝手にしてろ阿呆碓氷!!」
「うんv勝手にするv」


人の並みに飲まれて転びそうになった彼女を助けて言い合いと、端から見れば只のバカップルの痴話喧嘩なのだが…
それでもやはりイケメンとは憎いもので、他意も悪気も無くとも自然と注目を集めてしまう。

勿論美咲に対しても他意も悪気もあるはずなんてない。
美咲と共にいると言うのに碓氷に向けられる視線は物珍しい生き物を見るようなものではなく、明らかに女子独特のあのキラキラした視線だ。

今までそんなもの大して気にしてこなかった美咲だが、碓氷のことを意識し始めてからというもの何故かそういった女子からの視線が気になるようになってしまった。

ちらりと碓氷の方を見る。
だが当の本人はそんなキラキラした視線に見向きもしたい。
安心して良いはずなのだが、周囲の視線に気づけば気づくほどに、どうにも不安が大きくなってしまう。


「わぁ…カッコイイ…」
「あんなイケメンそういないよねぇ…」
「あんな彼氏欲しー!!」


キリもなく交わされる黄色い声。
碓氷はまるで聞こえてもないように振る舞っているが、美咲にはしかと聞こえている。
碓氷が興味を示すのは自分だけだと分かっていても、黄色い声をあげてる子達の中には、男子に圧倒的人気な親友・花園さくらのようなふんわりした子や、遠い親戚だと碓氷が言っていた教師・宮園マリアのような大人の女性も見かけられる。
女の子らしい可愛い子を見かける度に美咲は不安になってしまう。
碓氷と付き合うようになってから余計に気になり出した、胸焼けのようなもの。
それが今も気になって仕方ないのだ。


「?…鮎沢、どうかした?」
「は?…いや、なんでもない……」

紫陽花に見入っているというわけでもない美咲の表情に違和感を覚えて声をかける碓氷。
美咲は何事もないかのように無理矢理笑顔を作るが、それが偽りであることなど、碓氷は承知済みだ。


「…なんでもないって顔じゃないんだけど?」


そう言って美咲の顔を覗き込む碓氷。
美咲の方が背が低いために自然と碓氷が体制を低く取ることになる。
そのため、今まで自分の隣にいた碓氷の顔がいきなり視界いっぱいに広がり、美咲は一気に顔を赤らめる羽目になってしまう。


「な、なんだよお前!!い、いきなり目の前に現れるなアホ!!」
「…だって鮎沢、全然楽しそうじゃないんだもん。…俺と一緒に紫陽花見るの、飽きた??」
「!!?、そんな訳っ」
「じゃ、どうしてそんな顔してるの??」
「それは……」


どことなく切なそうな碓氷の顔に気まずさとやるせなさを覚える美咲。
その顔に弱いことを知ってのことなのだろうか…
見つめ続けられれば逃げられる訳がない。
碓氷から顔を反らしたまま、美咲は小さく呟くように言葉を発した。


「…お前は、どうなんだよ」
「はい?」
「…お前は私といて楽しいのか??」
「…鮎沢、何言ってんの??」


急な問いかけに思わず聞き返してしまう碓氷。
美咲の表情はどことなく寂しさを帯びているように感じ取れた。


「っ!!、何なんだよお前はっ!!」
「ちょ、鮎沢??」
「あんだけの人の視線集めてるの気づかないのかよ!!お前を見てる人の中には私なんかよりずっと可愛い子や美人な人がいるだろうが!!っ、なのにお前は!!…何なんだよ本当に…」


流石に人前だからか、叫ぶまではいかなかったものの、間近にいる碓氷にとってはかなり大きめの声を出した美咲。何かが切れたように言葉が溢れ出してた。
一息に言い切った美咲の息は少し乱れ、言うだけ言われた碓氷は呆然とするのみ。
だが、すぐに顔が緩み小さく吹き出した。


「な、おまえ、今笑っ「まったく…鮎沢、そんなこと考えてたの??」


美咲の言葉を遮って笑いかける碓氷。

「鮎沢、周りの子が俺のこと見てる浮かれてるところ見てヤキモチ焼いちゃったんだ〜」
「な、ヤキ…!??ち、ちがうっ!!」
「なんで違うの??俺今めちゃくちゃ嬉しいんだけど」
「嬉しいって…、ふざけるな!!人の気も知らないで!」
「鮎沢は知らないだけだよ。大好きな彼女にヤキモチ妬いてもらうなんてこんな嬉しいことはないんだよ??だって、ヤキモチ妬くってことはそれってつまり…」


碓氷はぐいっと美咲を自分の方に引き寄せ、バランスを崩した美咲は半ば強引に碓氷に抱きつく形になってしまう。
忘れているといけないが、あくまでここは公園、外であり、周りに人もいる。
そんな中で碓氷に抱きつくなど…美咲の顔は一気に熱を帯びた。


「それだけ俺のことが“好き”だってことでしょ?」
「なっ…!!てか碓氷!!こ、ここは外だ!!離れろ!!人前ではやめ「良いじゃん?俺は鮎沢のモノだって俺達を見てる、ここにいる、みんなに見せつければ良いよ。」
「だからって、!!」


すると碓氷は人差し指を美咲の口元に当て、それを今度は自分の唇に当て、しー、と、静かにするように促す。


「大丈夫。ここ学校からは遠めだし、ライトアップの光だけで暗いから、誰も俺達だって分からないよ。」


そう言って優しく微笑む。
背に光を浴びて花と共に浮き上がる碓氷の姿は幻想的で、美咲は思わず見とれてしまう。


「何があっても俺は鮎沢の物だよ。それに、不安になっちゃった美咲ちゃんのために、ヤキモチなんて妬く暇もない位に愛してあげるからVv」

「…、ほんとだろうな…」
「何その疑わしいって目。俺そんなに信用ない??」
「…嘘だったら殴るぞ」
「嘘なんかつかないよ」

そう言って美咲の艶のある黒髪に大きめの手が添えられ、そのまま数回撫でられる。
目を合わせれば目の前に見えるのは優しい微笑み。

美咲はそっと目を閉じ、近づく熱をそのまま受け入れた。
優しく重なる唇からは、不安と嫉妬でいっぱいだった美咲の心を溶かすのに十分過ぎる程の熱が伝わってくる。

木の陰に隠れていて、おまけに碓氷の手がしっかりと顔を隠してくれているために、自分達が誰なのかなんてことはきっと分からない。


(…ヤキモチも、悪いものではないんだな)


頭に浮かんだその思いは、言葉として発することはなく、自分に向けられる温もりと共にそっと心の奥底に仕舞い込んだ。




end

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