会長はメイド様! 短編

□日付の変わるその瞬間<トキ>に
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9月28日 23時55分

時計の針はもうすぐ明日の時間を刻もうとしていた。



【日付の変わるその瞬間<トキ>に】




今日は生徒会の仕事が多かったせいか美咲はいつもより少し疲れてしまったため、もうそろそろ寝ようかと思い、布団に入ろうとしていたその時。
ふいに机の上から携帯のバイブ音が部屋に響いた。
こんな時間に誰だろう…と不思議に思いつつ携帯を手に取りディスプレイに目をやれば“碓氷”の文字。


「…碓氷のやつ、こんな時間に何の用だ?」


家族は既に寝ているから、あまり声をあげたくないのが正直なところだ。
しぶしぶながらも通話ボタンを押して電話を耳に当てた。


「もしもし…」
『もしもし美咲ちゃん?良かった。まだ起きてた』
「そろそろ寝ようとしてたところだがな」
『じゃあグッドタイミングじゃん。わーい。俺って天才』
「……用がないなら切るぞ」
『美咲ちゃん酷いなー。用があるから電話したのに』
「じゃあさっさと用件言えよ!私は寝たいんだ」
『んー…もうちょっと待ってて。あと2分位』
「はぁ?おまえ何ふざけたこと言っt『鮎沢…』


ふざけた様子から急に声色を変えて真面目な声で名を呼ばれ、心なしか美咲の鼓動は速くなる。


「な、なんだ?」
『…………』
「お、おい碓氷…?」
『10・9・8…』
「え、は?おまえ何数えて…」
『7・6・5・4』
「おい何なんだよ!」
『3・2・1』
「碓氷!」

『0……誕生日おめでとう…鮎沢』
「え……」


そう言われて慌てて時計を見れば重なっている長針と短針。
28日から29日に変わった瞬間だった。


『誰よりも早く、一番最初に言いたくてね。今日は普通に学校でしょ?1日中一緒にいるわけにはいかないし…だからもうこれしかないなって思ってさ』


29日になって一番最初に聞いたのが碓氷の声…
そう思うと美咲は顔が赤くなるのが自分でも分かる。
同時に正直に嬉しいと思っていた。


「…あ、ありがとな…」
『どういたしまして。そういえば鮎沢今日バイトは?』
「今日は店長がゆっくりしろって言ってくれて休みだ。店でのお祝いは明日やってくれるらしい」
『そっか。なら、うち、来れる?夕食振る舞ってあげるよ』
「…行く。というか………」
『…鮎沢?』


そこまで言って言葉を止めてしまった美咲。
不思議に思った碓氷は声をかけるが言葉は紡がれない。
美咲は唇をきゅっと噛み締めてからぽつりと言葉を溢した。


「…最初から…そのつもりだ…」
『………』


電話越しだが美咲の顔が赤いのは分かる。
碓氷の口許は美咲を前にしているわけではないのにも関わらず自然と緩んだ。


『…なんでそんなに可愛いの……』
「なっ……!」


突然言われた言葉に美咲は再び顔を赤くする。
目の前に本人がいればからかわれているだろう姿が易々と想像できる。


『とりあえず、また後でね。寝る前にごめんね』
「いや、構わない…その…う、嬉しかったから…」


最後の方は控えめな声量になってしまったが、互いに静かな部屋で互いの声しか聞こえないような状況であったのだから、聞き取るには十分だった。
その言葉に碓氷は再びふっと小さく笑みを溢した。


『…おやすみ鮎沢』
「……おやすみ…」


そうして携帯を耳から離して電源を切る。
正直言えばまだあの声を聞いていたかった…というのも決して嘘ではない。
だが、あの声を聞けたおかげで良い眠りにつけそうだと、心のどこかで思う自分がいた。



電気を消して布団に入る。
浮かぶ思いは電話越しの小さな口約束。
たったそれだけが今日という日の色をいつもより鮮やかに変える大きなものとなっていた。





素敵な日になりますよう願いを込めて───



end
 

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