会長はメイド様! 短編

□コトバ×キモチ×カラダ
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“体が勝手に動く”だの“体は正直”だのといった言葉はどうやら紛れもない事実のようだ。
「私」という人間の中で真っ先に動くのはどうやら“体”であり、それに続いて“気持ち”が動き、最後に“言葉”がついてくるらしい。
まあ、体と気持ちが逆になる時もあるが…
少なくとも言葉が一番最初に素直になってしまうなんてことは私には早々ない(あくまで私自身に限ったことだが…)

要するに考えるより先に行動するタイプのようだ。
自覚はしていたものの、あいつと付き合うようになって嫌というほど分かってしまった事実。
いつだって気持ちの整理がつく前に体が動く。言葉なんて、まったく逆走してしまっているのだから手の施しようがないくらいだ。
それでも、気持ちは体についてきている。あいつと関わるようになってからは、あいつのことを意識し続けている自分がいるのも分かってる。悔しい気もするがな…
そんなこと一言だって言ってないのに、あいつはきっと気づいてる。それが一番悔しいんだ。
だから私は言葉でなんか絶対言わない。例え素直に言葉を紡ぐことができるようになったとしても、気づかないフリをして行動してやる…





午後の体育の授業が終わった後。
着替えのためにさくらやしず子と一緒に更衣室に向かって歩いているとグランドに面した扉から、たった今授業が終わったらしい男子の中、一人離れて先にこちらに向かってくるあいつを視界に捉えた。


「あ、碓氷君だ」


隣にいたさくらが声を上げる。


「碓氷君さっきの授業も相変わらずすごかったよねー次々にシュート決めちゃうしさ!!」
「まぁ、あんな風にひとりで決められちゃえば学年関係なく女子達が騒ぐのも分からなくはないですね」


しず子もさくらの言葉に納得したように頷いた。
…確かに、頭良いくせに運動もできるとは……卑怯だろ
そう思い、思い出したのは先程の碓氷の姿。
ガラにもなく激しい運動をしたせいでの乱れた髪に額を伝う汗、そしてまとわりつく衣類。
そんなつもりなど毛頭なくても、知ってる身として“あの時”のことを思い出してしまった。
意識などしなくても顔に熱が集中するのが分かる。
それを振り払うように被りを振るが、一度蘇ってしまった光景はそう簡単に消えることがなく、むしろ鮮明に思いだされてしまいどうすることもできなくなってしまう。


「美咲?顔赤いけど大丈夫?」


ふいにさくらに顔を覗かれた。


「だ、大丈夫だっ!!さ、さっきのバスケで少しはしゃぎすぎてしまったからな、火照りがとれなくて困るよ」


そう言って誤魔化すように手で顔に風を送る。他人から見ても分かるくらい赤くなってたとは……
しかし、少し風を送ったくらいでは冷めてくれない熱。
いつの間にか先程よりも距離の近くなった碓氷に気がつき再び熱が上がってしまう。

くそ………あいつのせいだ……



自分を見失うなんてなかった私が
生徒会長であり男嫌いである私が

こんなにまで狂わされてしまう

こんなにまであいつに…

“触れたい”

と思ってしまう



「……」


碓氷と私達がすれ違うまであとほんの数歩。
幸いさくら達には気づかれてないだろう。
意を決して真下に下ろしていた手をほんの少しだけ横に広げる。そして───



トンッ



「!?」


すれ違い様に碓氷の手に自分の手を軽く当てる。
約束はしていたものの、恥ずかしさのあまり今まで一度だって自分から出したことはなく、いつだって出されるのは碓氷からだった、所謂……


逢い引きの合図………


自分のとった行動が今更ながら無性に恥ずかしくなり、急いで手を引っ込めてそのまま横を通りすぎる。
背中に碓氷の視線を感じたが、わざわざ振り向いて赤い顔を晒すなんてことをするつもりはない。
少しだけ空いてしまったさくら達との距離を縮めるように急ぎ足でその場を後にした……













それはあまりに突然で……

約束はしておいた。
毎日忙しい彼女はいつだって近くに誰かしらがいる。
役員であったり女子であったり先生であったり。

彼女は公衆の面前で堂々とイチャつくようなことは絶対に望まないし、何より俺らが付き合ってることは未だに知られてない事実。

そんな彼女だからこそ、“会いたい”と告げるのだって一苦労。そんなの直接言うわけにいかないし。
だからある日を境に決めた小さな約束。放課後決まった時間に決まった空き教室で会おう…という合図。

でもいつだって俺からで…

恥ずかしいってのを理由に彼女から来るのはないだろうな…と、予想はしてたから別に良いんだけど。
同時にいつかは来るだろうか…という期待も抱いていた。

でもまさか…
こうも突然来られるとは…
さすがの俺でも予想外。
驚きすぎて、去っていく彼女の背中から目を離せずにいた。


触れられた箇所がなんとなく熱いような気がして、思わず顔がニヤけてしまう。
近くに誰もいなくて良かった……



「……今日はご褒美あげなきゃね…鮎沢」






ご褒美は何がお望みですか?お嬢様──





end

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