会長はメイド様! 短編

□telling
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lululu……

「誰だ?こんな時に」

12月31日。
いつもとは少し違った鮎沢家の1日が終わって寛いでいる時に美咲の携帯から、着信を知らせる音が鳴り響いた。



【telling】



「……」

ディスプレイに表示された名前を見た美咲は言葉を詰まらせた。
そして、小さくため息をついて通話ボタンを押した。

「こんな時に何の用だ?」
『わー。電話出て第一声がそれ?』


薄々感づいてはいたものの、こんな時に電話をしてくるなんて…と、ため息が溢れる。
まあそもそも、こんな時、しかももう日はすっかり沈んでしまった時間に携帯に電話してくる奴なんか、この変態宇宙人ぐらいしかいないのだが…


「…こんな日まで電話してくるなんて、一体何の用だ」
『こんな日だから電話してるんじゃん。あのさ、美咲ちゃんこれから予定ある?』
「は?…これからって…」
『って言ってももう少し遅く。0時少し前位』


そう言われて美咲は部屋に置かれている時計に目をやりる。
後3時間程。


「…特にこれといった予定はない。というか、普通はないだろ。大晦日の夜中だぞ?」
『まあそうなんだどね、一応確認。予定ないなら二年詣り一緒に行かない?』
「は?」


あまりに唐突な思わず変な声を出してしまう。
今回二度目なのだが…
碓氷との会話なんて家族に聞かれるわけにはいかない…
そう思った美咲は受話器を耳に当てたまま居間から部屋へと移動した。


「…なんでまた二年詣りなんだ。明日の朝初詣行けば良いだろ?」
『うーん…そうなんだけどさ』
「けどなんだ?」


碓氷が二年詣りにこだわる意図が分からない。
確かにアイツは低血圧だから、朝に弱いのは百も承知だ。
だか、そんなに早くに行く必要もないのに、なぜあくまで“二年詣り”でなければならないのか…


『だって鮎沢、初詣は家族と一緒に行くでしょ?
それに二年詣りなら得した気分にならない?』
「得した気分?」
『そ。……今年一番最後に一緒にいたのが鮎沢で、来年の一番最初に一緒にいたのも鮎沢だって思うと、俺は得した気分になるし、すごい嬉しいけど?』
「ッ…な、にを…」


恥ずかしいことを淡々と言う碓氷に美咲は電話を持っていない方の手で赤くなった口元を押さえた。


『…できればそのまま暫く一緒にいたいんだけど…』
「なッ…し、しばらくって…」
『勿論無理強いはしないよ?鮎沢にだって鮎沢の都合があるんだから俺の勝手な気持ちで鮎沢を独占するつもりなんてないし。でも、できるなら二年詣りは一緒に行きたいな……初詣は家族で行くだろうからさ』


からかってふざけている声じゃない。
なんだかんだ言って自分のことを一番に考えて言葉を述べてくれている碓氷。
今年最後くらい一言素直に気持ちを伝えたいのはやまやまだか、どうにもいつもと同様プライドが邪魔をする。


「あ、あのな碓氷ッ!」
『ん?何?』


面と向かって話をしてる訳ではないのにやはり声を聞くだけで顔が赤くなるのが自分でもよく分かる。
素直になれない自分を追い払うように、必死で言葉を繋いだ。


「その…友達と行くって言えば…母さんと紗奈は、多分、気にしないだろうし…じ、時間をずらせば…鉢合わせの可能性も、少ないし…だ、だから…その…」
『鮎沢……』
「…二年詣りだけ行っても、すぐ…だろ?だから…その…あ、朝もできれば……」
『……うん…初詣も一緒に行こうか』


言えなかった言葉を変わりに言ってくれたことにホッと胸を撫で下ろす。
受話器の向こうの碓氷の声がいつもより違ったことに美咲も気がついていた。



「…っ、じ、じゃあ後でな…」
『うん。後でね』



そう言って美咲は逃げるように電話を切った。
先ほどの碓氷とのやり取りを思い出して再び火照ってしまった顔を冷ますように数回深呼吸をして、小さく呟いた。


「…あと2時間……か……」



長かった1年が終わりを告げ、始まるのは新しい毎日。
あの頃に比べて大分変わった自分の心境に気づきつつ……




Good night and
Have a good time

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