会長はメイド様! 短編

□無防備な君
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今日はやけに冷え込んだ1日だと思った。
冬になりつつあるのだから、今までも勿論寒い毎日だったが今日の冷え込みは今まで以上だと思う。
吐く息は1日中白かったし、ストーブの着いている教室は大丈夫なのだが、一歩外に出れば思った以上の温度の違いに思わず身震いをしてしまう。

いつもなら授業をサボって屋上にいることも可能なのだが、あまりの寒さにさすがに今日は無理があった。
かといって日中使ってない教室のストーブを勝手に着けて居座る訳にもいかず、大人しく教室にいるしか方法がなかったほどだ。

こんな中いつまでも学校になんていられない。
生徒会室で未だ仕事をしているであろう彼女に声をかけて、今日はもうさっさと帰ろう。

そう思って寒さを少し我慢して彼女がいるはずの生徒会へと向かった。




「なんで寝てるの…?」


早く会いたくて急ぎ足で向かったのにも関わらず、いざ扉を開けて目に入ったのは机の上で両腕に顔を埋めて規則正しく寝息を立てている彼女──生徒会長鮎沢美咲の姿だった。
大きな音をたてないようにゆっくりと扉をしめて、美咲の側へと向かう。

最初は気づかなかったのだが顔は真下を向いている訳ではなく、腕に顔をつけたまま横を向いていた。
その為、美咲の寝顔がよく分かる。


「いつもは寝てって言っても寝ないのに…」


誰かに言うわけでもなく小さく呟いた。
自分の上着を脱いで美咲にかけ、近くにあった椅子を持ってきて美咲の側に座る。
幸いストーブが着いていたため、上着を脱いでもさほど寒くはなかった。
きっとだからこそ美咲は、寝てしまったんだな…と1人納得もした。


「鍵も掛けないで…無防備なんだから」


いつもは気が強く、校内で見かける姿は大抵が女子を背に男子の相手をしてる姿か、男子に対して罵声を浴びせている姿だ。
他の男子にしてみればそんな鬼会長からはとても想像できない“鮎沢美咲”の姿が今、自分の目の前にある。
こんな、普通の女の子の姿を拝めるのはきっと全校生徒合わせても自分くらいなのだろう。
そう思うと自然と自嘲にも似た笑みが零れた。

無防備なその寝顔き引き寄せられるように黒髪に手を伸ばして優しく撫でると、美咲は小さく声を上げて身動ぎしたが、起きる気配はなく再び規則正しい寝息をたて始めた。


そんな美咲の姿が無性に愛しく思えた為、椅子から立ち上がると、髪に手を添えたまま露になっている頬にそっとキスを落とた。


「頼むからそんな姿、俺以外に見せないでよ」


そのまま耳元で囁いた言葉が美咲本人に聞こえたのかどうかは分からない。

それでも、たった今キスを落とした美咲の頬がほんのり赤くなった気がしたのは見間違いではなかったはず。


もう少しだけこのまま、疲れている彼女を休ませてあげよう…
そして目が覚めたら一緒に帰ろう。

寒さなんて忘れてしまうほどに抱き締めてあげるから───



end

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