会長はメイド様! 短編

□止まない雨に
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今日中にやらなければいけない生徒会の仕事が残っていた為、他の役員が帰った後も生徒会室で仕事をしていた。
ちょうどバイトもないし少しなら大丈夫だろうと甘くみたのがいけなかった。
忙しかったからとはいえ、朝のニュースを見なかったことをこれほどまでに後悔したことなんて今までにあっただろうか……





【止まない雨に】





終わりきらなかった仕事のことやまだまだ未解決の問題のことで頭がいっぱいになっていたせいか、生徒会室を出るときは気づかず、玄関を出てから気づいて途方にくれた。


先程まであれほど笑顔だった空が、まさか大粒の涙を流していたなんて──


それも軽い雨ではなく地を叩きつけるような激しい雨だった。
朝の青空と自分の判断の甘さを恨みながらも少しの間その場で様子をみるが、通り雨でも一時の夕立でもなさそうで一向に止みそうな気配を見せない。

降り続ける雨は弱まることを知るどころか強さを増すばかりで。
屋根の下にいながらも、地について跳ね返り頬にかかる雫を、時折掌で拭ってはため息をつく。


バイトがない為急いでいるわけではないが、いつまでもここにいるわけにもいかない。
再び大きくため息をついてから濡れる覚悟をして雨の中に足を踏み出そうとしたその時だった。

不意にその腕を何かに引っ張られたのは──


「何やってんの鮎沢…」


聞き間違えるはずのないその声の主によって帰ろうとしていた足を止められてしまった。
どこか焦ったような、耳に響く聞き慣れたテノールの声。


「碓氷……?」
「まさかとは思うけどそのまま帰るつもり?」


いつものふざけた目ではなく真剣な時にしか見せない鋭い目で見つめられ、顔が紅潮するのが自分でも分かり、捕まれていた腕を振りほどいた。


「仕方ないだろ。まさか降るなんて思ってなかったから、傘持ってきてないんだよ」
「…天気予報で夕方から大雨になるかもって言ってたじゃん…見てないの?」
「う、うるさいな!時間なかったんだ!」


図星をつかれれば口から飛び出すのは反発の声ばかり。


「いくらなんでもこの雨の中濡れて帰ったら、元気が取り柄の鮎沢でも風邪引くよ」
「…だからって、止むまでここで待ってるわけにもいかないだろ」


そう言って眉をひそめれば、碓氷は小さくため息をついて鞄を持ち直し、片手で持っていた少し長めの傘を目の前で開いた。
ぱんっと今の周囲には似合わぬ乾いた音が響いて傘が開けば、それを自分に差し、空いている手をこちらに向かって差し出した。


「…なんだその手は」
「何って……傘を忘れた生徒会長様と相合い傘して帰ろうと思ってv」
「結構だっ!」


語尾にハートでも付きそうな笑顔で言われて、思わず大声をあげてしまう。


「そんなこと言っても会長、入んなきゃ濡れて帰るしかないんだよ?さすがに俺も傘2本持ってるほど用意周到じゃないし」
「最初からそうするつもりだったんだから別に構わない!第一…あ、相合い傘なんてして誰かに見られたらどうするんだっ!」


星華の生徒になんて見られたりしたら、明日からネタにされて質問責めに合うことは目に見えてる。


「大丈夫だって。もうほとんど皆帰っちゃってるし。それに──」
「っ!…」


言い終わる前に腕を思いっきり引っ張られて、碓氷に抱き寄せられる格好になってしまう。


「な、は、離せっ「それに、びしょ濡れになっていつもと違う鮎沢を他のヤツに見せる訳にはいかないでしょ?…鮎沢が良くても俺が許さない」


耳元で囁かれてしまえば顔を赤らめずにはいられない。
見られないようにと顔を背ければ、頭上からくすりと小さな笑みが帰ってきた。


「風邪ひかれたら、困るしね」


そう言って抱き締める腕を解放して互いに邪魔にならない程度に距離をとられ、反対の手に持っていた傘を2人の間に差した。

顔は相変わらず火照ったままで、気温は下がってるのだろうに、比例して下がってくれればいいものを体温は一向に下がらない。


どうやら煩い雨音とほんのりと香る土の匂いに思考を惑わされてるようだ。

どうかしてる。



先程ああ言ったのにも関わらず

“碓氷となら相合い傘でも構わない”

なんて思ってしまう自分がいるなんて──




こんな気持ちになるのは止まない雨のせいだ

傘に入らなければいつまでも帰れないから仕方なくだ


そうやって無理やり自分を納得させてから、鞄を碓氷とは反対側の腕に持ち直して、俯いたまま寄り添うように傘の中に入る。
すると碓氷は少し驚いた表情をしたが、すぐに優しい笑みを浮かべた。


「…帰ろうか」
「…おぅ……」


そうして少し大きめの傘に2人で入って家路につく。

高ささの違う2つの肩は離れることなく寄り添ったままで───



end

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