小説
□暖かい右手、夕暮れ
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「はーんべ♪」
「なんだい?慶次くん。」
「一緒帰ろ。」
・暖かい右手、夕暮れ・
慶次くんの誘いに乗り、二人だけで帰路に着く。
陽は沈みかけ、人通りも疎ら。
鞄を肩に担ぐ慶次くんの横顔は橙色に染まっていて。
優しげな微笑を湛えた慶次くんは、悔しい程格好良かった。
「どした?半兵衛。」
慶次くんの呼びかけで我に帰る。
僕は何を惚けていたのだろう。
「ずっと俺の事見てる。」
図星を突かれて、思わず顔を逸らした。
「……随分と自意識過剰なんだね、君は。」
違う。
自意識過剰なのは、僕の方。
この笑顔は僕にしか向けられていないと。
少なからず想われていると。
期待している自分がいる。
そんな自分が堪らなく嫌だった。
(僕が好かれている筈ないのに)
「…うん、ちょっと願望入ってる。」
少し淋しげな笑顔を浮かべながらも、それでも満面の笑みに変えて、彼は言った。
「だって俺、半兵衛の事好きだし。」