小説


□月光道化シンデレラ
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「バクラ、」

「……起きてる?」


夜十一時。今は町も口を噤み、月の光だけが僕を見つめていた。
ベッドに横たわり、何かから隠れるような小声で囁く。



『……俺様は眠る必要がねぇ、って前にも話した筈だぜ』

やや乱暴な口調。
三日程前にも繰り返したこのやり取りに、呆れているのだろうか。



僕はふふ、と微笑を零した。



『……何が可笑しい』


「何でもないよ?」


くすくす。
明らかに憮然としたバクラの表情が見て取れるようで、僕はまた微笑った。




たわいのない話を睦言のように囁き合う、この時間が好きだった。



「綺麗な月だね、」



太陽は嫌いだ。

弱者を断罪するように、影を見せ付けるかのように照りつけるから。



「優しくて、冷たい光………」



月が、好きだ。

どんな罪さえも赦して、光で包んでくれるから。



「……だから僕、闇も好きだよ?」

月の出る、証だから。




『………………は?』

バクラにしては珍しい、素っ頓狂な声。


まぁ、何の脈絡も無く言った言葉だし、当たり前かとは思うけど。




『闇が好きなんて言う奴、お前位だぜ?』

普通、人間という生き物は闇を嫌い、忌避するものだとバクラは続けた。




その時、


ゴーン………、
ゴーン…………、

時計の針が零時を告げた。




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