- 小説 -


□Your eyes are staring at the ground. 前編
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達也はベッドへ近づき、俺の額の髪をかき上げ触れるか触れないかくらいに口付けた。
「…おやすみ」
「え…あぁ」
なんか、ものすごくダンディって言うか、男らしいって言うか…。
いや、達也は男だからそれが当たり前なんだけど、なんか変だ。
「あの…達也」
背中を向けて布団に入った達也に恐る恐る声をかけてみる。
なんかもうすでに背中が恐かったけど、振り返った達也はかなり機嫌が悪そうな顔してた。
何だか予想外の事が多すぎて、混乱してきた…。
とりあえず、今は寝てしまおう、うん。

翌朝、部屋の外から来るいい匂いで目が覚めた。
寝ぼけた頭を掻きながら寝室を出ると、リビングの殺風景なガラステーブルにトーストとスクランブルエッグが置いてある。
「おぉ〜!!」
何かもう、そのままドラマに出てきそうな朝食だ。
これ食べたら俺も、オヤジくさい生活を脱出できるかもしれない。
キッチンの方を見ると達也がまだ朝食の準備をしていて、そこからはコーヒー豆の香ばしい薫りがした。
「おはよう、早かったね」
「お、おはよう達也」
いや、タメ口は嬉しいんだ。むしろ敬語なんて固いことしないで欲しいし。
けど…けどこの違和感は一体何なんだ?
こういう態度、俺は望んでいないのか?
「先に食べてなよ、もう準備終わるから」
「…あぁ」
ソファーに腰掛けトーストを口に運ぶころ、コーヒーとサラダの小鉢を持ってきてくれた。
「ミルクと砂糖、ここに置くから」
「え?俺いつもブラックだけど…」
少し目を大きくして、驚く達也。
「昨日、あんなに苦いって騒いでたじゃないか」
「昨日…?達也とメシとか喰ってないけど」
いよいよ達也の言ってることが食い違ってきた。
これは絶対何かあるぞ!
「…ごめん」
え?何で謝るんだ!?
「昨日、君に無理させたみたいだね…疲れただろ」
まぁ昨日は色々疲れたけど…昨日あったことを忘れるわけがない。
「達也…どうしたんだ?まだアキオのこと怒ってんのか?」
「アキオ?…朝倉、熱でもあるんじゃないか?」
達也に引き寄せられ、額と額が触れる。
あれ、達也って俺より少しだけ背が小さかったような…。
って言うか俺のこと朝倉って呼んだ!?
「ちょ、ちょっとどいてくれ!」
達也を振り払い、無我夢中で洗面台に走った。
鏡に映る、俺ではない誰か。晶夫。
「うっ、うわああぁぁあ!!」
 
 
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