- 小説 -


□さよなら 中編
2ページ/10ページ


くだらない会話を繰り返すだけで相当な気力を使ったが、何とか富永の会社に着くことができた。
「…ホントに会社でいいんですか?俺の家すぐそこですけど…」
「いい、お前の家族にまで迷惑かけられないからな」
応接間の少し質のいいソファーに腰掛けると、急激な眠気に襲われる。
早く横になりたいが、考えることは山ほどある。
「もう一つ頼みがある。明日この車を貸してくれ」
「えぇ…太田さんにも断わっておきます」
心配そうな顔で、富永がこっちを見ている。
「それから…」
「なんですか?」
言いにくいが、言葉を選ぶ余裕すら今の俺にはなかった。
「もし、ブラックバードから電話があったら…俺は忙しいと、それだけ伝えてくれ」
「……わかりました」
勘がいいのかはわからないが、富永は俺の頼みを全て快く引き受けてくれた。
借りはあまり作りたくないが、とにかく助かった。
「すまない…恩にきる」
重いまぶたは一度閉じるともう開かず、俺はそのまま倒れるように眠りにおちた。 
 
次へ
前へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ