- 小説 -
□The same Speed
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『ああ、北見さん。どうしたんですか?』
電話先は、富永だ。
「達也のポルシェがグズってな。今回はクリーニングだけにしたんだが、後で付き合ってもらえないか?」
そう言うと、電話からは思いもよらない返事が返ってきた。
『……達也?誰ですか?』
「あ…?」
俺の思考回路は停止し、多分見たこともない顔をしていたと思う。
『…もしかして、ブラックバードですか?』
「あ、そ、そうだ!あとでそっちに持っていくからな!じゃあな!」
まるでまくし立てるように言って、返事も聞かずにガチャリと受話器を置いた。
なんだか、まずいことを言ったような気がする。
富永はワイドショーのようにどうでもいいことを突っ込んで聞いてくる。
質問攻めにされる俺の姿を想像するのは容易だ。
「……くそ」
自分の失言の恥ずかしさで顔は赤くなり、やり場のない気持ちをどこにぶつけていいかわからず、そのふくれっ面を意味もなくポルシェに向けていた。