- 小説 -


□Promise before Good-bye.
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「なんだお前」
「あの…」

初めて出逢ったのは、春が終わり、夏の暑さが顔を見せ始めた頃だった。
トタン屋根の工場で、汗だくの油まみれでになって北見は働いていた。
「…こんにちは」
「はいはい、こんにちは」
忙しなく作業に追われて、相沢のことなどほとんど見ていない。
恐る恐るその背中に声をかける。
「あの…チューニングをお願いしたくて」
「悪いな、一週間後にまた来てくれ」
予想通りの返事。
「あ、はい…失礼しました…」
相沢はガックリと肩を落とした。
当時、東名レースの最高速チューナーとして名が通っていた北見だ、肩くらい落として当然だろう。
「おい、あんた名前は?」
まるで作業中の車に話すように、北見は問いかける。
「相沢です」
「はいはい、相沢さんね。じゃ、一週間後」
顔もろくに見られていない口約束なんて、果たして覚えてくれているのだろうか。
不安になりながらも一週間後、相沢は再び北見の工場を訪ねた。

「こんにちは」
「はいはい、こんにちは」
あの時と同じ返事。
だが、違ったのは工場の方だった。
「どうした相沢さん、早く車、中に入れてくれよ」
あんなに忙しそうだった工場が、車の一台もいなかった。
「あの」
「あんたのために空けといたんだからさ」
「あ、はい…」
ガレージの中に車を納めると、改めて、と北見は話しかけてきた。
「北見淳だ。悪いな、名刺切らしちまってるんだ…」
「いえ…。相沢洸一です、名刺を…」
そう言って名刺ケースからソレを取り出そうとして、相沢の手は止まった。 
 
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