- 小説 -


□晶夫のおつかい 前編
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天気予報は、曇りのち雨。
明日は曇りのち晴れだから、天気は回復に向かうだろう、だから雨もそんなに降らないだろう。
そうタカをくくった時こそ、ひどい本降りになっちまうもんだ。
「なんだ…普通に降ってやがる」
店じまいをしながら厚い雲に覆われた空を見る。
見たところで、空は真っ黒なだけだ。
また誰に言われるでもなく、のんびり自分のペースで作業に戻ると、何かが近づいてくる気配がした。
「……?」
振り返ると、強い雨音と共にバケツの水をひっくり返したような雨が、ワンテンポ遅れて降り始めた。
「こりゃひでーな」
夕方を過ぎた時間帯だが、厚い雲のせいで早く日が落ちたように感じ、大雨は冷たさを増していく。

達也が仕事を終え、ガレージに車を置いて歩いて家まで来たのは22時前だった。
俺みたいにビニール傘じゃなくて、なんかちゃんとしたすごく質のいい傘を差していたが、それでも背広もズボンもびしょ濡れだ。
この雨だ、安いも高いも関係ないか。
「お疲れ様、ほらタオル」
「すみません…ありがとうございます」
店を抜けるとすぐ居間に上がれるんだが、何故か達也はそこから動こうとしない。
「何やってんだ、早く上がれ。風邪ひくぞ」
「いえ…このまま上がったらお家が汚れてしまいますから…」
…こんな所でタオルを渡した俺も間違ってたな。
「さっさと入って服脱げって!」
達也の手を引っ張り無理矢理中に入れさせた。
絶対、晶夫の奴ならズカズカ入ってくるぞ。
もっと図々しくなって欲しいって言うか…心を開いて欲しい、だと少し言い過ぎだけどさ。
気を抜いて欲しいよなぁ、俺の前くらい。
「あ〜ぁ、シャツまでびしょ濡れじゃねーか」
「じ、自分で脱げますよ…」
プイとそっぽを向かれてしまった。
「大丈夫か?顔赤いぞ?」
「………」
「達也…?」
なんだか様子がいつもと違う。
具合が悪そうとかそう言うんじゃなくて。
確かにいつも恥ずかしそうな仕草はするけど。
「………」
「もしかして、照れてるのか?」
いつもの達也じゃない。
 
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