- 小説 -


□さよなら 中編
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「富永…」
RGOの車の横でコーヒーを両手に持ち、富永が俺の帰りを待っていた。
「あ、北見さん、どこ行ってたんですか?」
「そこにいたんだよ、こいつもな」
俺の後をついてきた晶夫を指さすと、富永は首を傾げた。
「…誰もいませんよ?」
なんとなくは予想していたが、嫌な予感は的中した。
「…じゃあ、向こうにアキオのZは見えるか?」
「何言ってるんですか、いたら俺だってすぐにわかりますよ」
やっぱり、富永には晶夫もZも見えないらしい。
「そっか…ならいい」
何もいいことなんてない。それくらいしか返事が浮かばず、だるい体をまた狭いバケットへと滑りこませた。
「お前、後ろに乗れ」
「北見さん!後ろにシートはついてませんよ!」
「…富永に言ったんじゃねぇ」
悪霊に憑りつかれたことなんてあるわけないが、テレビとかでよくあるヤラセ番組のように、体は重く頭の回転も鈍っていた。
「一体どうしたんですか…?」
「なんでもねぇ、帰るぞ」
『ねぇおっちゃん!もしかしてこの人、富永公じゃない!?有名人じゃん!』
「………」
とりあえず、晶夫はシカトだ。

晶夫をふりはらうように全開で走り出したが、まるで自分の影のようにどうやっても離れなかった。
「富永…頼みがある」
「なんですか?」
「お前の会社でいい、今晩泊めてくれ」
「え?!どうしてまた…」
「家に…帰りたくねぇ」
「お、俺、そっちの方じゃないですから…」
頬を赤く染める、とても気持ちが悪いものを見た。
「バカ、ふざけたこと言ってんじゃねーよ」
 
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