- 小説 -


□さよなら 前編
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明日は達也の仕事が休みだから、今日俺の家に泊まりに来る。
月に数回しかないかなり不定期な休みだけれど、かなり大きなイベントみたいで、いつもワクワクしていた。
この特別な日はちょっと早く店も閉めて近所のスーパーで買い物を済ませ、1人分も2人分も食事の量は大して変わらないけど、余裕を持って飯を作り達也が来るのを待つ…んだったが…。
買い物から帰ると、電話の親機の少し大きなボタンが赤く点滅していた。
機械的な女の声が、留守電であることを告げ、短い電子音がする。

『…達也です。また、連絡します…』

ほんの数秒の達也の声で留守電は終わり、シンとした部屋に胸騒ぎだけが残った。
(ヤバい、変なタイミングで出かけちまったな…)
『家電』があるから携帯は持たない主義な俺でも、何度かこういうことがあるとさすがに携帯くらいなきゃだめかなと思う。
とにかく電話をかけると、コール音もしないうちに達也は電話に出た。
『もしもし、達也です』
「あ、俺だ。電話出られなくて悪かった…」
カチッ、カチッとボールペンをノックする音と一緒に言葉が続く。
『いえ、僕の方こそ忙しいのにすみませんでした。あの…それで…』
「ん、なんだ?」
『…今日、北見さんの家におじゃまできなくなってしまって…』
「え……」
妙な胸騒ぎは現実のものとなり、落胆の色が隠せなかった。
 
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