特別本棚
□2人の変奏曲
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桜の花びらが春風に舞う、卒業式。
別れと未来への希望…悲しくも明るい歌は、練習よりずっと不揃いに体育館に響きわたった。
式が終わっても皆しばらく学園に残り、今までの感謝を振り返ったり、次に会う約束などをとりつけたり、名残惜しいのかなかなか帰ろうとはしない。
かくいう私も、可愛い後輩に囲まれ語り合ったり、お世話になった先生方に挨拶を済ませた。
最後にしっかり脳内に焼き付けようと学園の周りを歩いていると…
「見つけたっ!!!」
体育館裏で見知った後輩が息を切らしながら駆け寄ってきた。
「やー食満くん、まさか卒業式で殺気を放ちそうになるなんて思いもしなかったよ」
贈る言葉ほぼ食満オンステージ爆音ver…恐らく一生忘れないだろう。
卒業式証書授与の時、壇上を降りようとした私に叫びかけ、黒い笑顔の友人にしとめられていた姿もしかと記憶に残した。
『愛する貴女がいない毎日なんて、俺はいっぐふぁあ!!!』
確か式中にそのまま保健室に強制連行…
ゴホッ、もとい、運びこまれたはずだ。
「思い出の品をください!!」
「って言われてもねぇ…」
その執念で復活して探し回っていたのだろうか…感心していいやら、呆れていいやら。
「残念。校章のピンはおしげに、リボンはユキちゃんに、夏用ネクタイはトモミちゃんにもうあげちゃったのよ」
「そんなぁ…、……。つかぬ事をお聞きしますが、この学園に入学予定の女子が知り合いや親戚にいますか?」
「いない、けど?」
「っしゃあああ!ではその!」
「制服はやらねぇぞ」
「ううっ」
図星か。
というか私の制服を手に入れてどうする気なんだろう……。
とりあえず、嫌な予感しかしないので想像にストップをかけた。
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