□シュガーケーキ
1ページ/3ページ

ねぇ、リョータ。
私、おかしいかな。

私やっぱり、彼が好きなんだ。




―*―*シュガーケーキ*―*―




私は仲江川 梨音、18歳。
パティシエール目指して、単身パリに留学中。
日本には父と双子の兄がいて、母はもういない。
ある日突然、父から再婚の知らせ。
ところがその相手は兄の片思いの相手だった―――

という流れを踏まえて、その再婚相手とのご対面のために、私は一時帰国となった。



「はじめまして、藤咲 郁です」
――綺麗というより可愛らしいタイプの女性だ。
こんな若いお母さんなんてなぁ…
ほら、リョータが泣きそうだ。
あーあ、逃げ出しちゃった。
しょうがないな。
私が助けてあげるよ。


「ケーキ作るの。買い物付き合って〜」

辛そうな兄の亮太郎を、三角関係のようなその場から連れ出した。

悲しいとき、辛いとき、私達は甘いものが欲しくなる。
…元気が出るよってお母さんがくれた甘い味が、幸せな記憶だからかな。
だから私は、パティシエールになりたい。
いろんなひとに、幸せを分けてあげたいから。



「梨音ちゃん?」

「ビックリした、なんか雰囲気違うし、声掛けるの迷ったよ」
 
ビックリは私も同じだ。
イキナリ声を掛けられてみれば、それは元彼…久史先輩だった。

夢のためにパリに留学を決め、高校を中退して、彼にも別れを告げた。

好きだけど、終わらせた恋……


あの頃と変わらない笑顔を向けられて、胸がドキドキと鳴った。
ワァッと、顔が熱くなる。

だけど……
左手の薬指に、指輪が光った。
最悪。
まるでリョータと同じみたい。

「先輩、ごめんなさい。今からお買い物なんで行きますね」

突然の再会に、何を期待したんだろ?
ばかみたい。
私から別れたのに。


戻れるわけないのに。




リョータを助けたつもりが、リョータに助けられてしまった。
美味しいケーキを食べに連れられて行き、田嶋美沙子さんを紹介された。
私が憧れるパティシエールとして、隠れ家みたいな小さなカフェを経営しているひと。
彼女と意気投合してケーキを作り、先輩のことなどすっかり忘れていった。

「おっ、やっと出来た?」

美沙子さんの息子でリョータの友達である和馬くんが、完成したケーキをカウンター越しに覗きこんだ。

「うん、出来た〜♪ほらっ、可愛いでしょ?」

私は出来たてのそれを、彼のほうへ向けた。
 
「へぇ〜なんか普通と違うね」
「うん、これはシュガーケーキだよ。フルーツケーキをお砂糖でコーティングしてあるの。イギリス流ウェディングケーキだよ」
「へぇ〜ぇ、ウェディングケーキ?」

和馬くんはカウンターから身を乗り出して、美沙子さんに似た笑顔を見せる。

「あら、いつもは食べるだけで興味なさそうなくせに?」
「うっせぇよ〜」

美沙子さんは後片付けをしつつ笑って、言葉を続けた。

「でも、どうしてシュガーケーキなの?」
「…父が再婚するんです。それを認めてお祝いしたい気持ちを込めてみました」

リョータにはハッキリとは言えないけれど、私は賛成だから。
リョータが好きになったヒトだから、きっとお父さんを幸せにしてくれる。
ワガママばかり言って留学してる私が出来る、せめてもの親孝行……。

「こんなに綺麗なケーキを娘にプレゼントされたら、嬉しくて泣くかもね」

和馬くんは今にも食い付きそうな顔をして私に言うと、ニッコリと笑った。
彼と美沙子さんは、本当によく似ている。



後片付けを済ませたあと。
和馬くんとチャリンコ二人乗りで走り出してから、私は寄り道を提案した。
 
「ねぇ、ちょっとだけ高台に行かない?」
「え?いいけど、公園行きたいの?」
「うん。思い出の場所だから…」
「了解!」

何故そのとき其処へ行きたかったのか……
私は自分の気持ちにもまだ気付いてなかった。
 
 
 
次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ