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□だけど、
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愛してる、なんて言わなければ


この関係に終わりがくることもなかったのに




「えーし、」

いつものようにベッドに腰掛けるあたしと、

床に座り込む英士。

「何?」

ちらり、と視線だけ合わせて返事をする英士。

「若菜くんに聞いたんだけど、」

猫を撫でる手を休めて細めていた目を戻してこちらに体を向けた。

「…何を聞いたの?」

若菜という言葉に眉をピクリと動かすのをあたしは見逃さなかった。

「英士に好きな人がいるって」

「へぇ」

そんな事?とでも言いたげな瞳をして
雑誌に目を向ける

「へぇって!誰が好きなの?あたしの知ってる人…?」

「…知ってるかもね」

ページが捲れる音と共に吐かれたため息。

そんな姿に泣きたくなった。
お前には関係ないんだ、と言われてるみたいで。

「英士、」

溢れそうな涙を隠すように

「何?」

無理矢理笑顔を作った。

「あたしを好きになってよ、」

目を見開いた英士に、

「愛してる、英士のこと」

子供のあたしに似合わない言葉を零した。


聞こえない英士の声と

聞こえる英士のため息。


唇を噛み締めて、

もう幼なじみには戻れないんだ。

「他の女子と喋らないのに、わからないんだ?」

「え?」

英士のまっすぐの瞳を見た。

「俺だって好きに決まってるでしょ?」

「ウソだっ」

あたしを好きになるわけがない。
いつも妹みたいに扱うあたしを。

「俺が好きでもない女の面倒見ると思うんだ?」

思わない、なんて
泣くあたし


付き合ったその先に何があるのかなんてあたしにはわからなくて。

別れがくることにびくつくかもしれない。

愛してる。なんて言わなければずっとこの関係も壊れずにすんだのに。


だけど、あたしは

この手を離したくない。


バカだね、なんて呟くキミのそばに。



もうあたしは幼なじみのこの関係を越えたかったんだ。


END


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