小説

□悋気と言う名の愛
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【悋気と言う名の愛】


ダージリンを丁重に蒸れてティーカップに2つ注ぎ込む。甘い香りが空を扇ぎ嗅覚が刺激される。

カップの側にスプーンを添えてお好みで砂糖とミルクも用意してトレイに移した。

それを運ぶティナは悩まし気な面持ちをしている。和らぐ紅茶の香を吸い込んでも吐かれた息は何処か籠もっていた。


理由は時折発生する身体の痛みと苦しみに寄るもの。慣れそうに無いその痛みに掻き回され心乱れている。

これが何なのか判らず、彼女はまた痛みが強く引き起こすで有ろう場所へと歩んでいった。


足が向かう先は世界に一機となった飛空艇、その中の一室の部屋。主に皆が集まる空間となった所にティナは薫り高い紅茶を運んでいた。

目的地の場所に近付くにつれ、胸の痛みが徐々に動き出していった。


「……」


扉を目にして制止。普段なら軽々と開けられる目の前の扉は、重い鉄の扉と化していた。息を小さく吐いてノックを鳴らす。

ドアノブに手を掛け感覚の無い力で開けると、中には良く知る人物が2人。

楽しそうに会話を交える男女。


ティナの双眸にはソファに凭れ掛かるエドガーの目前にクスクスと笑うセリスの姿が映っている。

チクリッと胸に棘が刺さる痛み。

邪魔する心的現象を振り切って間に割って入る。

「…ダージリンを淹れたのだけれど、良かったら飲んで」

雑談中のエドガーとセリスにティーカップを差し出した。


「あら、いい薫りだと思ったら…。ありがとう、ティナ。戴くわ」

「ティナの淹れてくれる紅茶は身も心も温かくなるよ」

蒸れたての紅茶を美味しそうに味わう2人にティナは出来る限りの笑顔を作り背を向けた。



この場所には居られない。


これ以上、居たくない…。



そう思ってこの場から去ろうとした矢先。


「きゃっ!」


悲鳴が背後から響く。

どうやら、立ち上がったセリスが足を躓き体制を崩した様子。



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