Nitro+CHiRAL

□Valentine's Day!
2ページ/2ページ

「なぁ、蓉司は誰かにチョコやんの?」


「は?」


昼休み、机でのんびりと読書をしていたら睦がやって来て突然そんなことを聞かれた


「……チョコなんて……女がやるもんだろ?」

「ちちちち……甘いな蓉司。今『逆チョコ』が流行ってんだぜ?」

睦が得意げに話す
蓉司は耳慣れない言葉に首を傾げた

「『逆チョコ』?
何だよ。ソレ……」

「『逆チョコ』っていうのは、男子から女子にプレゼントすることだよ!
んでも、そんなことする奴なんて早々いねぇし……女子がやってる『友チョコ』アレの男バージョンみたいな感じじゃね?」

ふと蓉司の頭の中に哲雄の顔が浮かんだ

「ふーん………睦は誰かにやるのか?」

「俺?俺は食べんの専門」

睦がカラカラと笑った

「チョコ………か」

何とはなしに呟いた

「蓉司、チョコ買いに行くん?
なら、帰りに寄って行こうゼ」

「……俺、買いに行くって言ってないけど………」

「えぇ、買わねーの?……あ、ならさ!俺に買ってよ!美味しく頂くからさ」

睦が目をキラキラして迫ってきた

「………チョコが食いたいなら、自分で…「あー、楽しみだなぁ。蓉司のチョコ」……聞けよ」

睦はまだ来るかも分からないチョコを思い、思考が明後日の方向に向いているようで全く聞いていなかった

「はぁ……分かったよ」

蓉司は半分諦めて、睦と一緒に放課後、買い物に行くことにした




放課後、チョコを買うために駅近くの通りを睦と2人で歩いた
どの店にも、ピンクの段幕や看板に大きく『バレンタインデー』と書かれ、ワゴンが置かれチョコが山積みになっていた

「ふへ−……チョコが沢山!
やべー!全部食いてぇ!」
睦はうずうずとチョコを見ている

「…全部は……食べれないだろ………」

蓉司は小さく溜め息を吐いた

大半の店は女性が多かったが中には男性も混じっていて、店の煽り看板に『逆チョコ』と書かれている店もあった


「蓉司!こっちのチョコ!うっまそーだぜ!」

睦がある店のショーウィンドウの前で手を振っている
仕方なく、その店に近付く店はごく普通の何処にでもあるような小さなお菓子屋だった

「コレコレ!うっまそー!」

睦は今にも涎を垂らさん勢いでそのチョコに見入っていた

「コレか………でも、ちょっと高いな……」

綺麗な装飾が施されたチョコは学生の身である自分には少し高かった


ふと、隣のチョコに目を惹かれた
飾り気のないシンプルなデザインで、紅茶と普通のチョコが2つずつ入っているものだった
値段もそれほど、高くない

「このチョコ……」

──哲雄に良いかも知れない

「ん?何?蓉司、決まった?」

睦が唐突に呟いた蓉司の顔を覗き込んできた

「あ、あぁ……」

「なら、買いに行こうぜ!」

睦が先立って店に入っていく
続くように入ろうとして、また違うチョコが目に止まった

ドライオレンジが乗ったチョコで、2コ入りの本当に小さなチョコ

──コレは………睦だな


蓉司は小さく微笑んで2つのチョコを買い帰路に着いた




「ほら、こっちが睦……」

「へ?」


翌朝、睦の手の上に小さな箱を乗せると睦が唖然とした顔をして固まった


「ん?どうした?」


「いや、まさか…本当に俺にくれると思わなかった………え、コレ夢?」

睦は自分の頬をぺちぺちと叩き、抓った

「最初に欲しいって言ったのは睦だろ?
それにこのチョコ、何となく睦って気がしたんだ」


「え、マジで?
蓉司の俺へのイメージって、こんなんなんだな……ありがとう!美味しく食べるな!」


睦は満面の笑みで、チャイムと共に机に着いた

哲雄には昼休みに渡すことにして、午前中の授業を受けた



昼休み、哲雄は教室から出てってしまった
大方、何時もの場所だろうと階段を上がり、スチールで出来たドアを押し開いた

今日は晴天で暖かい日だが少し肌寒い風が頬を撫でた

案の定、フェンスに寄りかかってパンを食べている哲雄がいた

無言のまま近付き、隣に腰を降ろした

哲雄の隣には沢山の幾つかのチョコが積まれていた

此処に来るまでに渡されたのだろう
こう見えて、哲雄は意外とモテる


「……コレ」

昨日買ったチョコを哲雄に差し出した


「………。」

哲雄は蓉司とチョコを見比べてから無言で受け取った

蓉司が一仕事終えた気分で息を吐くと、目の前に灰色の箱が差し出された


「……え?」

「……お前に、先越された………渡されると…思ってなかった……」

哲雄が嬉しそうな恥ずかしそうな曖昧な顔で微笑んでいた


「………。一緒に食べようか………」

「あぁ……」


蓉司も微笑んで箱を受け取り開けて、ひと粒口に含んだ

「……美味しいな。」

「あぁ……」


哲雄も自分があげたチョコを食べた


正直、甘いものはそこまで好きでは無かったが
何故か特別美味しく感じた


end


ぎこちなす……睦蓉に見せかけて哲蓉オチ
テーマは『似た者夫婦』でした(笑)
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ