Nitro+CHiRAL

□A promise
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蓉司&哲雄side

ゆらゆらと漂っている

真っ白な世界

上も下も右も左もない

ただただ白い世界

隣に誰かの気配がある

不思議と安心する


俺にはもう見る目も触るための手もないけど


不意に聞こえない筈の耳に声が届いた


『我等を受け入れたお主等

無事に役目は果たした

我等の野望は成し遂げられた

我等の願いを聞き入れたお主等に褒美を授けよう

期限は我等が“動き出す刻”まで

好きなことをして過ごせ』


受け入れた?

役目?

野望?

“動き出す刻”?


一瞬、何を言われているか分からなかった


だが、その時無いはずの頭がズキリと痛んだ


記憶が

忘れていた記憶

否、失っていた記憶が一気に走馬灯のように駆け巡った


「!哲雄……」


呟いた時、ぐらりと世界が廻った


どんどん墜ちていく

白い世界が遠ざかって行く


「っ!」

しばらく墜ちてから、体に軽く衝撃がきた


ゆっくりと目を開ける

目の前には見慣れた改札


そこは学校の最寄りの駅だった


「蓉司……」

名前を呼ばれ振り向いた

自分の後ろには哲雄が制服姿で立っていた


よく見れば自分も制服姿だ


「さっきの……」

「え?」

不意に哲雄が口を開いた


「さっきの『声』……お前も聞いたのか?」


「!……哲雄も聞いたのか?」


「あぁ……」

哲雄が頷いた


彼等が与えてくれた束の間の自由

期限は確か、彼等が“動き出す刻”まで


すなわち、夕方の5時までだろう
あの『夕焼け小焼け』が流れる


「……どうする?」

「え?」

「お前……何かしてぇことねぇの?
時間はまだある……」

駅の時計を見た
ちょうど、お昼を少し過ぎたぐらいだ

「哲雄こそ……ないのかよ………」


「ない。俺はお前と居られれば何処でもいい………」
「なっ!」

哲雄が不敵に笑った
よくその台詞が恥ずかしげもなく吐けると思った


そんなことより、何をするか考えなければと思考を巡らせた


ふと1人の顔が浮かんだ


「あ……」

「……どうした?」

「睦との約束………果たそうと思って……」

ちらりと横目で哲雄に聞いた

「………。いいんじゃねぇの?」

哲雄がフッと笑ってくれた

ポケットからケータイを出し、睦にメールを送った



在るはずのない小さな日常の始まりだった



end






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