Nitro+CHiRAL

□Happiness like impossible
1ページ/2ページ

「ん………」


体がダルい

でも、心地良い香りがする………この香りは自分が好きな香りだ……
そして、一番安心出来る香り



蓉司はそう思うとゆっくりと目を開けた

薄いクリーム色の天井が視界にはいる


「……ここは……」


蓉司がぼんやりと視線をさ迷わせれば、色素の薄い見慣れた茶色い髪が見えた


「……起きたか」


哲雄が自分の手を握りながら微笑んでいた


「哲雄……!?
え、…ここは……」

蓉司が状況が1人理解出来ずに狼狽えていると、哲雄が溜め息を吐いた

「………。心配した。」

「え?」

「お前……結婚式直前に倒れたんだ………」

「へ……?!

あ、あぁ………。」

一瞬、何のことか分からなかったがすぐ思い出した

自分、崎山蓉司は正真正銘の女性であり
今日、高校からずっと付き合ってた城沼哲雄と結婚式挙げるのだ
ふと哲雄を改めて見るとちゃんと白いロングタキシードを着ているし、自分だってウェディングドレスを着ている


「何で……倒れたんだっけ………」

蓉司がそうひとりごちると哲雄が心配そうに覗いてきた

「……頭、打ったか?

三田が持って来た差し入れの匂いで酷い悪阻起こしたんだ」

「……あぁ……。」


思い出した。自分は既に哲雄との子を身ごもっていて、それを報せてなかった睦が気を利かせて持ってきてくれた差し入れの匂いで悪阻を起こした。
自分は元々食が細い。
そのせいか悪阻が酷く、一品以外を抜いた全ての食べ物を体が受け付けないのだ


「睦は?」

「謝ってた…。途中で来た翁長に連れられて、今は席で座ってる」

「善弥が?
来てくれたのか…。」


睦や善弥は高校の頃の友達で、哲雄を交えた4人でよく遊んでいた
ただ善弥は今、所謂堅気の人間ではないので正直来てくれると思って無かった


「どの位、寝てた?」

「……10分〜20分位、全員にワケは説明してある。」

「そうか………。」



10分〜20分間寝ている間に相当長い夢を見た

夢の中では自分は男で母校である駒波学園を舞台に、おんぬし様とか、自由なる民とか、訳が分からない変な事柄に巻き込まれていた

おまけに睦や善弥まで出てきた


夢の中では既に両親は他界していたが、蓉司の両親は健在で今日の結婚式にだって出席する
姉や自分が体が弱いのは一緒だ

冷静になって考えれば直ぐ気付く筈なのに、気付かないのは夢だったからだろう
本当に不思議なでもリアルな夢だった
まだ、頭の中ではどちらが現実なのかはっきりしていない


「………哲雄。」

「ん……どうした?」


ふと哲雄を呼ぶと、また手を握ってくれた


「なぁ……もし、もしもの話だけど………自分が男でも哲雄は好きになったか?」


言ってから“しまった”と思った
夢の内容すら話してないのに変なことを聞いてしまった
チラリと哲雄を見ると、当然ながら何時もの無表情のまま固まっていた


前に自分は人より抜けていると睦に言われた
善弥にも同じようなことを言われた記憶がある
昔から自分では意識しているつもりが、気を抜いた瞬間にポロリととんでも無いことをやらかす


何とか上手く説明しないとと思い、頭を悩ませていると

ベールの上から頭を軽く撫でられた


俯いていた頭を上げると哲雄がジッとこちらを見つめ、閉ざしていた唇が開いた


「そんなの………分かんねえよ……

でも……俺はお前の全てが……好きだ」


ふわりと大好きな香りが鼻をくすぐったと思うと、哲雄の腕の中に閉じこめられていた


「哲……」

「お前がなに考えてんのか知らねえけど………俺はお前を絶対手離さねえ………ずっと一緒に居ろよ」


更に哲雄の抱き締める力が強くなった
まるで何があっても手離さないというように

哲雄の頬にそっと手袋越しに撫でた
隠されていたハニーブラウンの瞳にウェディングドレス姿の自分が映る

瞳の中の自分はとても幸せそうな顔をしている


「あぁ……ずっと一緒だ………だから離さないでくれ」


軽いキスを哲雄の唇に施す

あまり長いと口紅が移ってしまう
だから本当に触れるだけのキス


哲雄は少し驚いた様に目を見開いてから微笑んだ
それにつられて蓉司も微笑む


「………行くか……みんな待ってる」

「あぁ…」


哲雄が差し出した手の上にそっと手を重ねた

手袋越しにも伝わる哲雄の心地良い体温


その暖かさがじんわりと胸に染みた

哲雄にエスコートされながら、大きな扉の前に立つ


この扉の先は


自分と哲雄が創る未来の出発点だ


哲雄とならきっとそれは幸せな未来だと思える






HAPPYWEDDING!

蓉司と哲雄!お幸せに!
次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ