Nitro+CHiRAL

□Valentine's Day!
1ページ/2ページ

いつもは書類で埋まっている執務室の机
だが、今日はその机の上に書類に混じって、簡素だが高級そうな黒い小さな箱が置いてある

「………はぁ」


アキラは本日何度目になるか分からない溜め息を吐いた
今日はバレンタインデーだ
この小さな箱もアキラが甘いものを好まないシキの為に用意した特別なチョコだ

だが、渡すべき相手のシキが今日に限ってなかなか捕まらない


お陰ですっかりとデスクワークにも手に着かなくなってしまった


「………少し外に出てみるか」

アキラは誰ともなく呟き、少し冷静になる為に執務室を後にした




「あ、アキラ様!」

城の廊下を歩いていると背後から名前を呼ばれた

振り向くと自分の部下の数名がそれぞれ大きなダンボールを抱えて此方に歩いて来るのが見えた


「何だ?俺に何か用か?」


「はい。実はこのダンボール箱全てアキラ様か総帥宛てのチョコレートでして………ある程度分けたのでお届けにあがろうとしていた所なのですが……アキラ様、如何致しましょう?」

ダンボール箱はざっと見積もって、10箱はあるだろう
とてもでは無いがこの数を自分一人で運ぶのは大変だ

「そうだな………悪いが執務室の前まで運んでくれるか?」

「畏まりました」


部下達はぺこりと軽く頭を下げ、執務室まで向かった
アキラもただ単に外の空気を吸いたかっただけなので執務室に戻った



「アキラ様一人でコレは運ぶのは大変でしょう……宜しければ内までお運びしますが?」

部下達が執務室の前に到着すると皆口々にそう申し出た

「いや、平気だ。この距離なら運ぶのもそう辛くはない」

「そうですか……差し出がましいことを言って、申し訳ありませんでした」

「いや………大した手間ではない。
御苦労だった。わざわざすまなかったな………下がっていい」

「はっ!それでは失礼します」

部下達はダンボール箱を運び終わると元の仕事に戻って行った


アキラは多すぎるダンボール箱に些かげんなりしながらダンボール箱を執務室の内に運んだ


全て運び終わったところでダンボールに貼られている紙を確認する

どうやらこの10箱の内4箱はシキ宛て、6箱はアキラ宛てのようだ


自分宛ての方の箱を開け、中を確認する

綺麗にラッピングされたチョコから高級そうなチョコまで沢山入っていた



「随分と精が出るな」


「っ!」


自分一人しか居ないと思っていた執務室に違う声が響きわたった

慌てて後ろを振り返ると自分が探していたシキが壁にもたれかかって嘲笑を浮かべていた

「どうした?腑抜けた顔して………俺の前で腑抜けた面を晒すな。目障りだ」


「あ、も申し訳ありません」

アキラが頭を下げると更にシキはチョコレートの入った箱を一瞥した


「ハッ………チョコレートなど下らぬ。見たくもない。その箱を全て処分しておけ無論、貴様の分もだ。逆らうことは許さん。分かったな」

シキは嫌悪を露わにした顔でチョコを睨み付けた


「っ!畏…まり……ました」

アキラは内心凄く動揺していたが、なるべく平静を装った

頭の中ではシキのある言葉がリピートされていた

『チョコレートなど下らぬ。見たくもない。』

先ほどのシキの顔は心の底から嫌悪した顔だった

──この分だと自分のチョコも受け取って貰えないだろう

アキラは少し悲しい気持ちになりながら広げたダンボールを部屋の隅に積み上げ、そんなことを滔々と考えていた


──どうせ処分するなら自分のは食べてしまおう

アキラは自分のチョコを取ろうと机の上に手を置いた

が想像していた感触は訪れなかった


疑問に思いながら目をやると机の上に乗せた筈のチョコが無くなっていた

アキラは急いで引き出しを開けた
中を隈無く探すが見当たらない
机の下も覗き込んだが結果は同じだった


「どうした?アキラ……探し物か?」

シキの声が聞こえる
まさか『総帥の為に用意したチョコを処分する為に探しています』とは言えない

「た、大したものではありません。お気に為さらないで下さい。」


アキラは尚も探したが、目当てのチョコは見付からない

もしやと思い、チョコが沢山入っているダンボールの中も探したが見付からない

ふと何故処分するチョコなのにこんなに必死になっている自分がいるのだろうと疑問に思った

処分するチョコならば無くなっても困るどころか寧ろ『手間が省けた』と喜ぶべきではないだろうか?


しかし、その答えは既に自分の中にあった
──思いを込めたものだから、例え渡さないとしても自分の中で何等かのケジメをつけたい

そう思い、ここまで探しているのだ


しかし、今だに肝心のチョコは見付からない

もう一度、引き出しを見ようとアキラが取っ手に手を掛けると


「アキラ」

凛とした自らの所有者の声が響いた
その声に応えるように顔を上げると


「探し物はコレか?」


たった今まで自分が探していたものを持った総帥が、悠然と革張りの椅子に座っていた


「っ!ソレは………何故……何処にあったのですか………?」

「お前が来る少し前にな……部屋に入った特にたまたま目に付いてな……」

シキが軽く箱を振った


「っ!お返し下さい。」

アキラがシキから箱を取ろうとするが、ひらりと箱は遠ざかった

「っ!総帥…「なるほど………コレがそんなに大事か?」

アキラの咎める声と、シキの冷めた声が重なった


「あんなに必死に探したのだ………さぞかし大事なものなのだろうな……誰かに貰ったか……あるいは渡すところか………相手は誰だ……言え。」

シキのピシャリとした命令と氷のような視線がアキラに突き刺さる


「!……違います!それは……「黙れ!………俺は相手を言えと言っている………聞こえなかったか?」

アキラが必死に弁明しようとしたが、シキによってあっさり切り捨てられた


だが、ここで『自分がシキに用意した』とは恥ずかしくて、とてもではないが言えない


「っ!言え…ません……どうか……お許しを……」

「ほぅ………貴様、所有物の分際で主に逆らうか?
もう一度、骨の髄から分からせてやろうか?

言え。これは命令だ。逆らうことは許さん。」


シキがスラリと日本刀を抜き、切っ先をアキラの喉元に充てた

「あっ……」


「言え」


必然的に顔が上がり、赤い瞳と視線が交わる


「っ!…、……です」

アキラは俯いて小さく呟いた


「ん?聞こえんな……。はっきりと言え」


「っっ!……総…帥……貴方……です」

その瞬間、ぴったりと時が止まったように感じた

シキは目を見開いたまま動かない

アキラの顔は羞恥で真っ赤になった


やがて、ゆっくりと日本刀がアキラの喉元から離れ、パチンと言う音がした


「アキラ」


さっきほどと同じ口調で呼ばれた
だが、心なしか先ほどより暖かみを感じた


恥ずかしくて返事をせずに俯いているとふわりと体が浮いた
自分が抱き上げられたと認識するまで少し時間が掛かった


「!?………総帥っ!降ろして下さ…「暴れるな。落ちるぞ」

アキラはシキの膝を跨いで向かい合わせになるように座らされた
顔が近く、赤い瞳とすぐ視線がぶつかる


「お前の気持ちは良く分かった
だが、もう少し俺を楽しませてくれんとな」

シキは手袋を外し、チョコの箱を開けた
中にはココアパウダーをまぶされたトリュフチョコが綺麗に4つ並んでいた


「アキラ……口を開けろ」


アキラがおずおずと口を開けるとトリュフチョコが一つ口内に投げ込まれた

「んっ!?……ふぐっ!」

驚く暇もなくすぐにシキの唇が押し当てられた
薄く開いた隙間から舌をねじ込まれ、アキラの舌が絡め捕られる


「ん…ぅ、…っ、……ん、……んん!」


息が苦しくなり顔を背けようとしたが、後ろから頭を押さえつけられ逆に更に奥深いまで受け入れさせられた


「んっ、………ふぁ、……」

やっと解放されたときは、アキラの口内のチョコがすっかり溶けきり、跡形も無くなったときだった


「………ふむ。甘いな……」
シキは開口一番、そう言った


「……っ…甘いものは……嫌いでは……ないのですか?」

アキラは息を吐きながらシキに問うた


「確かに、甘いものは好かん………だが、この甘さはちょうど良い」

シキはニヤリと笑い、もう一つチョコをつまみ上げた
「まだいけるだろう?存分に俺を楽しませろ」

アキラがシキに用意したチョコはビターだったが、今まで食べたもので一番甘く感じた



end

誰だ?このバカップル。
ってか、甘い!甘いよ!口から砂糖吐く!
テーマは『bitter(嫉妬)とsweet(仲直り)』でした



_
次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ