Nitro+CHiRAL

□MOON
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薄暗い路地裏

カビ臭さや排水溝からの異臭が混ざり不快な臭いが辺りに漂っている


こんな場所に長居するのは趣味ではない


アキラはそう簡潔的に思うと
目の前の物を横一線に斬り裂いた


斬り口からは真紅が溢れ、目の前の物はガクリと地面に倒れ伏す


アキラは刀を振り、血糊を払うと倒れ伏した物に見向きもせず、歩き出した


真紅はアキラが最も好きな色であり


最も嫌いな色だ



自分を未だに縛り付け、捕らえ続ける憎く愛しい存在の色


自分の今の姿形もそのコピーだ

最初はナイフで戦っていたがするが、気がつけばナイフは日本刀に変わっていた


アキラはふとシキと自分の関係を考えた


恋人などと言う関係では勿論ない

体を重ねることはあるが、愛情だのがある交わりではない

いや、正確にはあるのだろう………しかし、もっと狂気と愛情と欲望が混ざったものだ



敵、と言うにはまた違う



シキと自分はお互いに殺り合うが、常に相手が死ぬ一歩手前で力を抜く


何故なら殺すことが目的ではなく、お互いに死との瀬戸際の中での命のやり取りを楽しんでいるだけだからだ


しかし、もし過って殺してしまっても自分は笑っているだろう

アキラの中の一番暗い欲求

愛しいものを自分の手で殺す


それが満たされるのだから



不意に黒い影が視界を掠めた

それが何かアキラが認識する前に体は影に引き寄せられる様に駆け出していた


幾つもの角を曲がる、だが既に影の姿はない

それでも本能的に足が動いていた


漸く、視界が開けると


其処は路地裏の中で広い部類に入るであろう場所だった


壁に四方を囲まれているが、上を見上げればぽっかりと切り取られた様な夜空を望むことが出来た



その場所の中央に全く変わらぬ姿で立つ


シキの姿



その表情は冷徹であるが、楽しさが滲み出ている様な表情だった



アキラも自然と口角が上がるのを感じた



アキラは後ろ足をバネにし刀を構え、シキに斬りかかった

シキはアキラの刀を同じく刀で受け止め


その勢いで地面に倒れた


勿論、シキがアキラごときの力で押し負ける訳がない


ワザと地面に倒れたのだ


アキラは倒れたシキに跨り、刀をシキの喉元に当てた

それと同時に耳と、首もとの肌にカチャリと鳴る刀独特の音と鉄の冷たい温度を感じた


途端に肌が粟立つ


足先から脳天までゾクゾクとした何とも言えない痺れが駆け巡る



「…シキ………」


愛しい名を音として紡ぐ


「アキラ……」


するとシキもそれに答える様にアキラの名を心地良い低音で紡いだ


アキラはシキの喉元に当てていた刀を退け、傍らの地面に突き刺した

また、シキもアキラに当てていた刀を退けた


アキラはシキの顔の近くに手を付き、シキの視界を自分で覆う様に被さった


シキの唇が愉快そうにしなる


アキラはそのままシキに顔を近づけ唇を重ねた

そのままシキがいつもする様に歯列を割り、シキの舌を絡め取る


「ん………──…」


シキが小さく声を漏らした
アキラはその反応に気をよくし、更にシキの舌を吸った


「……ふ……──っ……」

「……ん!」



もっと口付けを堪能しようとしたところでシキがアキラの舌を軽く噛んだ
名残惜しかったが口付けを解くと2人の間を銀色が繋ぐ
唾液で潤ったシキの唇が小さく動いた


「……貴様は、自制というものが効かんのか…」


呆れたような声色だが、満更でもないようだ
長年傍にいれば分かる


「……生憎、誰かに似たんだ」

アキラの唇が悪戯っぽくしなる


それを見たシキの唇もしなった






そんな2人を見ていたのは、切り取られた空に浮かぶ月だけだった





END
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