第一部 鉄の少年
□第5章 少年の戦い
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「おーい、闘我くーん!」
「ん?」
家を出発してから数十分、中等部校舎に向かう道。
ちょうど葉ちゃんと別れようかという時、後ろからオレを呼ぶ声がした。
誰だろう?
疑問に思いながら、反射的に声がした方へ振り返ると。
「おっはよー!」
「ぶっ!?」
その瞬間、かなり勢いをつけた平手がオレのおでこに決まった。
「いって……!」
「決まった〜!」
予想外に強かったその痛みに、思わずおでこを抑えながらうずくまると、すぐそばから勝ち誇ったような声が上がった。
この声は、またあいつか……!
声色で犯人を察したオレは、立ち上がりながら怒声を上げる。
「――いってぇな。何すんだ、明石!」
「ごめんごめん♪」
すると、犯人である所の明石裕奈は、てへっ、と言いながら、舌をペロッと出してウインクをした。
オレとしては思いっきり怒鳴ったつもりだったんだけど、明石は全然堪えてないみたいだ。
こいつは全く……。
「やっぱり怒らせてるし……」
「ゆーな、ちゃんと謝りなよ〜」
「ごめんな、闘我君」
そんな明石の様子に呆れていると、後ろから大河内、佐々木、和泉も続いてきた。
明石に代わって謝ってくる和泉に返事をしながら、ぼんやりと思う。
思えば、この一週間でこの4人とはだいぶ間柄が深くなった。
そのお陰なのか何なのか、勉強で解らない所も教えてくれるし、昼ご飯の時とかも一緒にどうかと言ってきてくれる。
元々友達が多い方じゃないから、この4人があれこれと交流してくれるのはなかなかに嬉しい。
明石のやつもなかなか横暴な事を言ってきたりするけど、根は悪い奴じゃないしな。
最初は女子校に男が1人ってどうかと思ったけど、今やそんなに嫌な事じゃないな、なんて思っていたりする。
「――闘我さま」
「ん。ああ、葉ちゃん。何?」
いつの間にかオレは呆けていたらしく、葉ちゃんの声で我に返った。
返事をしながらそっちを見ると、葉ちゃんは佐々木に後ろから抱っこされている形で立っていた。
なんか、佐々木は葉ちゃんに会う度に抱っこしてる気がするな。
葉ちゃんも嫌がってない様子だけど、いつの間にここまで仲良くなったんだ?
「――私は向こうの校舎ですので」
「そっか。じゃあ、ここでお別れだな」
オレが疑問に思っている間も抱きしめられていた葉ちゃんだったが、いい加減に別れないとまずい、と佐々木の拘束から抜け出した。
「あうう、またね葉ちゃん」
「はい、まき絵さん!」
そして、手を振りながら元気よく走り出す葉ちゃんを、佐々木は手を振り返しながら何故か涙目で見送った。
そんな佐々木の姿に、なんとも言えない物を感じながら、オレ達は中等部校舎へと足を向けた。
その後、しばらくの間泣いていた佐々木に、オレを含めた他の4人が完全に引いていた事は、佐々木本人には言わないでおいた。